約 1,319,780 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1879.html
明るくなってきた頃妙な重みを感じ目を覚ましたが、前。 「なんだこりゃあ…」 正確に言うと、視線の斜め下75°の先に黒い髪。 シエスタの頭があって本気でビビった。 おまけに顔をこちら側に向けているため、スーツの胸のあたりに思いっきり涎の跡が付いている。 普通に考えると、ちょっとばかりアレでナニな状況で人に見られたらモノ凄く誤解されそうだが 正直、今のシエスタさんには魅力もクソも何も無い。 素面でやってるのなら平均値を上回る胸が当たっているだけに効果はそれなりにあるかもしれない。 …が、ここに居るのは潰れた酔っ払いの成れの果て。 脱いだら結構凄いのにそれなりに重要な局面で悉く空回りしているのが勿体無い。 したがってプロシュートにとって、今現在のシエスタも手の掛かる弟分扱いである。不憫。 もっとも、この唯我独尊がデフォルトな元ギャングに目上として扱われる者はそう居ない。 暗殺チームにおいても、リゾットが唯一それに該当し、後はペッシを除いてほぼ横。 ましてリゾットが居ないこの地においては、表面上はともかく芯のとこでは『平等に価値が無い!』と言わんばかりに目上という扱いが無い。 ルイズはもちろんのこと、アンリエッタですらまだまだ甘ったれたマンモーニで、オスマンに至ってはただのスケベジジイという扱いである。 老若男女、生物であるならば一切合財の区別無く平等に老化させるというスタンド能力はここから来ていると見て間違いないはずだ。 首を曲げるとゴギャンと良い音がした。 妙な体勢で寝たというのもあるだろうが、人一人がもたれ掛かってる状態が続いていたのだ。 一瞬、どういう状況か理解できずに、頭の中にメローネがパク…インスパイアされて作った『生ハム兄貴』なる歌が流れたが、思い出した。 「ああ…クソッ…!こいつが潰れて離れなかったんだったな…」 さすがに、もう掴まれてなかったので引っぺがしてベッドに運んでやる。 本来なら放り投げるとこだが、寝起きは低血圧のため若干対応が柔らかい。 イタリア人的に考えれば、色々と何かやっててもおかしくないが ご存知プロシュートはそういう方面では全く以ってイタリア人的要素を持っていないため、メローネのような事にはなりはしない。 ただ、ご存知兄貴気質のため、これが少なからずとも世話になっていたシエスタでなければ、問答無用で蹴りが入っているところである。 少しすると、苦しそうな寝息を立てはじめる。 「そりゃあ、潰れるぐらい飲めばな…」 床に転がっている酒瓶を見て呆れ気味に呟いたが、シエスタは何かうなされているような感じだ。 「…あうう…よ…妖精さんが……圧迫…祭り……」 「このヤロー…圧迫されてたのはこっちだってのによ」 まぁ、なんのこっちゃとも思ったが『圧迫祭り』という言葉に心当たりは無い。 ただ、妖精さんは心当たりがあるので、機会があればついでに聞いてみる事にしようと決めて部屋の外に出た。 「っはうあ!……今…おぞましいほどの悪寒が…何事!?」 襲撃を受けた暗殺者かというぐらいの速度で飛び起きたのはご存知エレオノールだ。 妖精さんは広まっていなかったが、新たな火種を抱えてしまいダブル・ショックである。 だがッ!鞭を振るっている時に僅かながらだが高揚感があったのも確かッ! 無論、『女王様』などという称号は頂きたくもないし、認めたくも無いので無かった事にしてしまっているが。 それでもッ!背筋にゾクッときたものがあるのも事実である。 グビィ 喉の奥の方で生唾飲み込むと、御愛用の鞭を手に取り振ると先端が中空を斬り風切り音が鳴る。 …が、今現在は何の感情も沸いてこない。 「気のせいね…まったく…それもこれも全部あの平民のせいだわ…」 重ねて言うが、一応あれでも貴族の子弟である。 とりあえず、まだ薄暗い時間帯だ。普段忙しい中での久しぶりの帰省である。もう少し寝なおす事に決めた。 なお、夢の中で『圧迫祭り』が開催されていたのは言うまでも無い。 「あう…いたた…」 プロシュートが出てからおよそ一時間後ようやくシエスタが目を覚ましたが、二日酔いであろう頭痛を感じ頭を押さえていた。 状況確認のために辺りを見回すと転がっている酒瓶が視界に入り、一応の理解はしたようだ。 「そう言えば…夕飯の時に一杯ぐらいならって思って…ど、どうしよう…もし失礼な事でもしてたら…」 失礼どころか一犯罪犯しかけたのだが、酔っ払いには二種類ある。 酔ってる時の記憶が綺麗に飛んで何も覚えていないタイプと、酔ってる時の記憶がしっかり残って起きてから後悔するタイプに分かれる。 シエスタは前者と見て間違い無い。 「でも、なにか良い事があったような…」 必死になって記憶を探ったが、思い出せそうにない。 一つだけ、誰かを掴んで一緒に居たような気はしたが。 「夢だわ…夢!……たぶん」 リアルでやってたらと思うと、顔から火が出る思いだったので夢だと思い込む事にした。 もっとも、現実だったらそれはそれで良かったのだが、相手は手の届かない所に行ってしまってるだけに夢としか思えなかった。 が、それはそれ。 未だ戻ってくると信じている。当の元ギャングがどう思っているかは知らないが強い子である。 ただ、シエスタの不幸は酒癖が悪い事であり、二日酔いになるまで飲んでいなければもう一時間ばかり早く起きれてご対面できたかもしれない。 まあ、その場合は説教確定なので運が良いのか悪いのか。 そうしているとシエスタが少しばかり悶え始めた。 どうも夢と思っている内容から妄想が発展気味になっているようだ。 「……や、やだわ、わたしったら…で、でも」 R指定一歩手前…もとい、突入していたのだが、まぁ例によってそういう小説を読んでいたのだから仕方無い。 妄想力(もうそうぢから)は、かなり高い方らしい。突っ走るタイプとみて間違いない。 生憎のところ部屋には一人。止める者なんぞいやしない。 もうスデに頭の中では幸せ家族計画まで構築されており、色んなデートプランが練られている。 本人が聞いたら説教間違いなしだが、突っ込む事ができるものは存在しないのだ。 自重という文字は今現在、存在すらしていない。多分、今のシエスタはエコーズACT3やヘヴンズ・ドアーですら止められない。 おかげさまでテンション絶賛上昇中でカトレアが扉をノックする頃には、タルブで二人してワインを造っているというとこまでに発展していた。 廊下を適当に歩いていると随分と騒がしくなってきた。 大体の事は分かっている。ルイズの親父、つまり、ヴァリエール家公爵が帰ってきたらしい。 「さて…あの頑固親父を説得できるかどうか見物だな」 まー無理だろうとは思うが、やらないよりマシというとこだ。 防御側が五万に対して侵攻側が六万。数の上では勝っているが本来、侵攻側が確実に勝つには防御側の三倍の兵力を要する。 急な侵攻計画で準備期間も足りず、学生を徴用するようでは無謀だとパパンは反対している。 プロシュート自身、戦略的に正論だと思わんでもないが この際、やるからには精々ハデにやらかして陽動してくりゃあいいと思っている。 つまるとこ、説得できようができまいが、どうなろうとどうでもいいということだ。 だが、そこに一つ疑念というか気にかかるものが浮かんだ。 (おいおい…オレは何時からロハで仕事するようになったんだ?) 自分でもそう思わないでもないが無理も無い。 パッショーネに属していた時でさえ、一応の報酬はあった。 スデに恩義も返しフリーな身である以上実利的な面からしてクロムウェルを殺る理由が無いのだ。 ただ、感情的な面から言えば別だ。 アンドバリの指輪の件で大分ムカついているのである。 前ならば、報酬無しで動くなぞ考えられなかったし、基本的に感情に流される事無く一切の区別無く対象を始末してきた。 組織に敵対したのも、組織から不当な扱いを受けたからというチームとしての実利的な面から取った行動だ。 本来なら、アンドバリの指輪の件では、自分や借りのあるヤツが直接害を蒙っていないので感情のみで動く理由も無かったはずだ。 だからこそ、そこに生じた矛盾に多少戸惑っている感はある。 「やれやれ…考えたところで仕方ねーな」 そのあたりは変わったつもりは無いが、それは自分でそう感じているだけで外から見ればどうなっているか分かったもんではない。 リゾットあたりが、この状況下におかれていたらどうすっかなとも思ったがそんな仮定を考えても仕方無い。 とにかく今は、濃いオッサンのために掃除なんぞする気も無いので昼頃までバックレる事に決めた。 この元ギャング、雇われている身でありながら実に自由人(フリーマン)である。 空を流れる雲を寝ながら眺めているプロシュートだったが、未だ警戒は怠ってはいない。 場所は池のある中庭の小島の影。 城の中から死角でサボるには非常に適切な場所であるため、結構気に入っている場所である。 バレたらバレたで表面上適当に『すいませェん』とでも言っときゃいいと思っている。 まぁ、バックレると言っても特にする事もなく、何も考えてはいない。ただ単に空を見ているだけだ。 実際のとこ、ここまで空を見てみるのも久しぶりだ。 今までやる事成す事全てにおいて血の臭いが漂っていたが こういうのも性には合わんがたまになら良いかもしれんと思ったとこで足音に気付き、軽くその方向を見ると思考を呼び戻し瞬時に行動させる。 ルイズが半泣き状態でこちらに向かってきているからだ。 さすがに、こいつにバレたら洒落にならんという事で身を隠したが、ルイズは小船の中に潜り込み毛布を被ると本格的に泣き始めた。 どうやら、パパンの説得は見事失敗したらしい。 放っておいてもよかったが、性分からして、こういうのを見るとつい説教しに出ていきたくなる。 「あー、クソ…鬱陶しいな。この腑抜けがッ」 遠い暗殺より目の前の修正…もとい教育。 一発殴って気合入れてやろうかとも考えたが、それをやると、今までやっていた労苦が水泡と帰す。 不測の事態でバレるのは致し方ないとしても、自分からバラすなぞ最たる愚考だ。 石で勘弁してやろうとし、適当な大きさの石を掴み投げようとしたが、また足音が聞こえた。 こちらも見知った顔だ。 昨日酒をくれてやったばかりのマンモーニ。 それが池に入り、ルイズが入った船の毛布を剥ぎ取りなにやら言っている。 細かい事までは聞こえなかったが、カトレアが馬車を用意したらしいが、何故かルイズが拒否している。 今にもドシュゥーーz___という音を出しながら投げようとしていた石を後ろに捨てるともう少し様子を見る事にした。 「いくら頑張っても、家族にも話せないなんて。誰がわたしを認めてくれるの? 皆、わたしの事なんて魔法が使えない『ゼロ』としか思ってない。なんかそう思ったら、凄く寂しくなっちゃった」 ルイズはそう言ったが、一人だけ自分を相応に認めてくれていた者が居た事は知っているが それは、もうここには居ない。 才人が着た時シルフィードの夢で見た内容と被って思わず頭を押さえたのだが 今になってみれば、まだ夢と同じように説教された方が良かったかもしれない。 「俺が認めてやる。俺が、お前の全存在を肯定してやる。だから、ほら立てっつの」 さっきよりも小さくなったルイズを見て、何かに本格的に目覚めそうな才人がそう言ったが 自信とやる気がほぼ『ゼロ』になっているルイズにはあまり意味を成さない。 「何が『認めてやる』よ。上っ面だけで嘘つかないで」 「嘘じゃないっての」 「…汗かいてるじゃない。今回の戦だってどうせ姫様のご機嫌取りたいんでしょ。キスなんてしてたし」 非常に冷たい声だ。DISCが刺さっているのならホルスかホワイト・アルバムだろう。 「ばば、馬鹿お前、あれは成り行きで……」 「成り行きでキスするの?へぇ~そぉー。もう放っといてよ」 言い訳無用な感じで言葉に詰まった才人だったが、続くルイズの言葉にいきなりキレた。 ルイズが『主人をほったらかして何やってるのよ…』と小さく呟いたのだが、才人には妙に大きく聞こえたのだ。 ルイズを主人にするのは使い魔たる才人だが、それはここに居るから才人の事では無い。 ルイズは思わずそう思ってしまって口に出ただけだが、先代。つまりプロシュートの事だ。 いたがって対抗心全開の才人からすれば『こうかは ばつぐんだ!』である。 「バカか?お前は!」 「なによ!誰がバカよ!」 「じゃあ大バカだ!誰か好き好んでお前みたいなわがままでえったんこのご主人様の使い魔やってると思ってるんだっつの!」 「か…!誰が板よ!よ、よくも言ったわね!この…犬!」 「いや、板とは言ってない!でも何度でも言ってやる! 正直な、俺だって戦なんて行きたくないし元の世界に帰りたいんだよ!そんなに前のヤツがいいなら、そいつと行けよ!」 「だったら帰ればいいじゃない!そうすればもう一度サモン・サーヴァントができるわ!」 売り言葉に買い言葉だが、二人とも似たタイプだけに止まらないし並大抵の事では止まらない。 ルイズとしてはポロっと口にしただけで、才人も先代の名前を出したからこうなっているが、両者とも本心ではない。 「……っかー、見てらんねぇ。痴話喧嘩じゃあねーか」 横で聞いている方からすれば、ガキ同士の喧嘩だ。それもかなりレベルの低いやつ。 思いっきり聞かれている事なぞ露知らず喚き散らす二人を見て呆れたものの これ以上ここに居る気も無いので見付からないように中庭から離れたが、少し目が暗殺者のそれに変わった。 池の方を見るとカトレアを除いたヴァリエール家御一行とほぼ全ての使用人が池を取り囲むようにしている。 理由は分からんが、なんかやったのだろう。 体験した限りガンダールヴなら大丈夫だろうとも思ったが、考えてみれば才人は丸腰だった。 「こいつは…『HOLY SHIT』っつーんだったか?ありゃ死んだな」 武器が無ければ一般ピーポーである才人なぞ、まな板の上の鯉。まさに俎上の魚だが あのウルセー剣を渡すつもりは無い。あんなのに知れたら一発でバラすだろうからだ。 回収するにしてもそのまま盾として使うつもりでいる。 無ければ向こうは困るだろうが、こっちだって困る。 一国のボスを殺るからには、それ相応の下準備というか、明確な弱点と能力特性があるだけにできる限りは伏せておきたいのだ。 ホワイト・アルバムやマン・イン・ザ・ミラーなら、こんな面倒な事せずに楽でいいのだが。 無論、ここで老化を使うと確実に巻き込んでバレるので、使う事はできない。 ルイズ達自身で乗り切って貰わにゃならんのだが、どうやらそうもいかないようだ。 何かが池に落ちた音がしたが、これはルイズが才人を突き落としたせいらしい。 続いて、やたら威厳のある声が聞こえてくる。 「ルイズを捕まえて塔に監禁しなさい。一年は出さんからな。 で、あの平民な。えー、死刑。メイジ36人集めてウィンド・カッターで輪切りにして瓶に詰めて晒すから台を作っておきなさい」 「かしこまりました」 モノ凄く覚えのある処刑方法を聞いて、決めた。 殺しはしないが、そのうち一回シメると固く誓う。 直接手は出せないので、まず、前のように自身を老化させ、適当なやつから武器を奪う。 何か言いたそうだったが夢の世界へと無理矢理ご出席して頂く事で解決した。 ルイズは小船のなかで半分呆けているので丁度いい。 取り囲まれてパニクっている才人目掛け剣を投げた。 「やべぇかもな…」 淡々とギャング的処刑法を命じるヴァリエール公爵を見て本気でヤバイと思い始めたが 急ぎだったのでデルフリンガーは持ってきていない。 今にも『ズッタン!ズッズッタン!』というリズム音が聞こえそうだったが、そこに風切り音がして目の前に剣が一本抜き身のまま突き刺さった。 思わず飛んできた方向を見ると、昨日見たばかりの顔を見て少し躊躇したが目が合った。 そうすると、親指で自分の後ろを指差し、続いて同じように親指で首を掻っ切るように走らせ、それを下に向けた。 『さっさと行かねーと、オレがオメーを殺す』 意味合いは違うが、助けてくれたと判断して剣を引き抜くとルーンが光る。 放心しているルイズを肩に担ぐと走り出す。 すれ違う瞬間に頭を下げ侘び入れながら駆け抜ける。 元使い魔としては別段驚く速度ではなかったが、それを知らない連中はおったまげている。 「ななな、何しとるんじゃああああァーーーッ!」 一拍置いてヴァリエール公爵の素敵なシャウトが響き渡るが、もうスデに遠い所まで行ってしまっていた。 放心したところを背負われたルイズだったが、使用人の一人とすれ違い、顔を少し上げ、その背を見た時少し違和感を感じた。 何故だかよく知っている気がしたからだ。 だが、背負われているため、それはどんどん小さくなる。 「ま、待って!戻って!」 「無理言うな!」 戻って確認したかったが、戻れば『輪切りの才人』が出来上がる事になる。 諦めたのか大人しくなったが、やはり妙に気になっていた。 この前の雨で辛うじて生き残っていた煙草に火を付ける。 煙草を吸うときは、ムカついた時と一仕事終えた時であるから、一応ミッションコンプリートである。 公爵の素敵なシャウトが轟き、そっちの方に目をやるとプッツンした公爵と使用人連中が後を追い、蒼白を通り越して白くなった顔の公爵夫人がブッ倒れ運ばれている。 暗殺を達成したような気分で煙を吐き出すと、その煙の向こう側から良い感じに強張った顔のエレオノールが音を出しながらやってきた。 「…どういうつもり?」 「何がだ?」 「あの平民に剣を投げ渡した事よ!」 見られてたが、少し遠かったので老化してた事はバレていないようだ。 「アレか。言うだろ?オレは馬に蹴られて死ぬってのはゴメンなんでな。大体、妹の心配するより先に、てめーの方を心配した方がいいんじゃあねぇか?」 「くぐ…うるさい!今日という今日はどうなるか分かってるんでしょうね。父様や母様に知れたらクビじゃ済まないわよ」 「気にしなくてもいいぜ。今日で辞めるからよ。ああ、そうだ。ついでに一つ聞きたかったんだが…『圧迫祭り』って何だよ?」 どの道、これ以上ここに居ても得る物は何も無さそうだ。 そろそろ、別の場所で動くべきだろう。いっその事アルビオンへ乗り込んでもいいが、船が出ているどうか微妙なところだ。 「な…何故それを…!」 またしても息を吐き出し崩れ落ちたエレオノールだが、それを見て何かあるなと思い追撃を仕掛ける事にした。 「人それぞれだからな、知られても死にはしねぇだろ」 「ああ…あのメイド…よりにもよってこんなヤツに……!」 例によって聞いちゃいないようだ。 「まぁ気にすんな。強く生きろよ」 もう完全に勝ったと思いエレオノールに背を向け煙草を吸ったが、殺気を感じた。 後ろを振り向くと手に鞭を持ちゆっくりと立ち上がっている。 「ヤッベ…やりすぎたか?」 「フフフ…口封じしないと…そう、まずは…」 言うが否や鞭が振るわれる。 それに当たるプロシュートではないが、エレオノールの妙な迫力には若干引いている。 「おい、戻ってこい」 こいつも、ルイズと同じと判断したが、どこか意識がブッ飛んでいる感じがしないことも無い。 どこか意識が飛びながら鞭を振るうエレオノールだったが、あの時感じた高揚感を感じていた。 (これよ…!これでないと!!) 今はまだ鞭が当たっていないが、当たればそれが確証に変わるという事は分かっている。 理性の面では認めたくないが、その理性がブッ飛んでいるので止まりたくても止まらない。 半分トリップしたかのような顔で鞭を振るうエレオノールを見て、そういう事かと判断したが、このままされるままというわけではない。 「なんで周りにこんな面倒なヤツしかいねーんだよ…いい加減戻って…来い!」 「か…ッ!」 非常に良い音がしたが、それもそのはず。 重なるようにして拳がエレオノールの鳩尾に入っているからだ。 ギャングを辞めたとは言え、その力はまだまだ衰えてはいない。 「ベネ(良し)…ま…そのうち起きんだろ」 一呼吸置いて、今度こそ間違いなくエレオノールが崩れ落ちた。 寝ている面だけなら、何時もキツイ顔してるヤツには見えないんだがな。 そんな事考えていると跳ね橋が上がる音が聞こえてくる。 そこまで面倒見きれんとして、橋が上がる様を見送っていたが、鎖が変色し土に変化した。 『土くれ』ことフーケを思い出したが、そんなもんがここに居ない事は確認済みだ。 この屋敷であいつらに手を貸しそうなメイジと言えば一人しかいないので正体はすぐ分かったが。 街道の向こうに遠ざかる馬車を窓から見つめたカトレアだったが、激しく咳き込んだ。 遠距離で『錬金』を唱えたからで、遠距離型スタンドを無理に使ったような感じだ。 普通なら精神力の消耗だけで済むが、カトレアの場合肉体的にもかなり疲労する。 少し意識が遠くなって倒れかけたが、間髪入れず猫草が空気クッションでフォローしている。 「ありがとう、大丈夫よ。もう平気」 「ウニャン」 そう言って猫草に笑みを浮かべると丸まって寝始めた。 とことん自由な生物(ナマモノ)である。 完全にこの家に居付く気だ。まぁベースは植物なので動けないのだが。 そこにいつの間にか扉近くに立っていたプロシュートが壁にもたれながら声をかける。 ヴァリエール家の使用人が着ている服ではなく、お馴染みのスーツ姿だ。 一応才人の部屋も回ってきたがデルフリンガーは無かった。一応回収はされたらしい。 「よぉ、アレはお前か。中庭の場所教えたのもそうだろ?面倒見がよすぎるってのもどうかと思うぜ」 「あらあら、あなた程じゃないわ」 兄貴と呼ばれているだけの事はあって、面倒見のよさにかけては定評があるプロシュートだ。 笑いながらそう言ってきたがぶっちゃけ反論の余地が無い。 「ちっ…言い返せないってのが洒落なってねぇ」 一応、本人もその辺りは自覚しているが、最後まで調子を狂わせてくれるヤツだ。 天敵というのはこういうのをいうのだろう。 もちろん、殺ろうと思えば殺れる相手だが、顔見るだけで毒気を抜かれてしまうような感じだ。 なんというか、オーラそのものが違う領域で同じ生き物と思いたくない。 「あいつらはどうした?」 「もう行ったわ。この子みたいに何時までも籠の中の鳥じゃないって事ね」 その視線の先には籠の中で包帯を巻かれていたつぐみだ。 笑みを浮かべながら中に手を伸ばすと、つぐみが手の上に乗った。 包帯を外されたつぐみを、ものスゴク輝いた目で猫草が凝視していたので布を被せたが そうしていると、カトレアが窓から手を出し2~3語りかけると、空へと飛び立って行った。 布を被せるのが少し遅れていたら、潰れたつぐみを食べる猫草という、少しばかり精神的外傷を残しそうな光景になっていたので間に合ってなによりだ。 「それじゃあオレも行くか。面倒かけたな」 「ええ。あなたにも、始祖のご加護がありますように」 例の鋭い勘によって出て行く事を分かっていたようで、特に驚きもされなかったが。 「ああ、言い忘れたが、ファッツ(大蛇)は最近食いすぎだ、控えさせろ。チャリオッツ(虎)の毛並みが最近悪いから、一度診て貰った方がいい。それから…」 今まで仕事で世話してきた危険動物達だが、状態はしっかり把握している。 仕事の内容に関しては手を抜いたつもりは無い。 そして、続きを言おうとすると、笑いながらカトレアに止められた。 「やっぱり、あなたの方が上ね。この子達の事はもういいから、代わりにルイズと、その騎士殿の事をお願いするわ」 そうすると、少しばかり真剣な目でカトレアがプロシュートを見つめた。 「あの子、ワルド子爵の件ではもう落ち込んだりしてなかったけど また、あの子の居場所が無くなったら取り返しが付かなくなるような気がするの。だから…」 「あー、分かった、分かった。見れるとこでならオレのやり方で両方纏めて面倒見てやんよ」 無論、本気で見れる範囲内の事でだ。手の届かない場所の事は知った事ではないし 守るよりも攻めを得意とするので、クロムウェル暗殺をやらんといかんなと一層思う。 頭を潰せばどんな生き物でも死に至る。それが例え組織でもだ。 レコン・キスタやパッショーネのような新興組織なら、なおさら頭を潰された時の混乱は大きい。 その隙を付いて麻薬ルートを乗っ取ろうとしただけに現実味がある。 「ったく…にしても人の事心配できる立場じゃねぇだろうが」 本来なら、カトレア自身が身体の弱さから心配される立場だ。 「いいのよ。あの子には先がある。私と違ってね」 そう言って目を閉じたカトレアだったが、それを聞いたプロシュートがカトレアの頭を一発叩いた。 「病人に言いたかねーし、やりたくもないんだが、この際だ。ついでに言わせて貰うぜ。 誰がオメーに先が無いって決めた。医者か?他人に言われて限界決めてんじゃねぇ。どうせなら最後まで足掻いてみろよ」 出来て当然と思い込む。 精神そのものを具現化するスタンド使いにとって大事な事だが、非スタンド使いにも言える事だ。 病は気からという諺もある。 やりもしないでハナっから投げ出すというのは、この男の最も嫌うところである。 しばらく呆然として俯いていたカトレアだったが、いつもと変わらない笑みを浮かべ顔を上げた。 「そうね。見てるだけじゃなくて私も…」 そこまで言ってプロシュートの姿が無い事に気付いた。 寝ている猫草に向けて杖を振ると、鉢が浮きカトレアの腕の中に納まる。 相変わらず、気にした様子も無くゴロゴロと音を立てている猫草を見てカトレアが決めた。 今度、この動けない猫草を自分が連れて街へ出てみようと。 やれるやれないは関係無い。そう思うだけでも十分だった。 プロシュート兄貴―無職! エレオノール姉様―『未』覚醒! 猫草―ヴァリエール家に根を張る 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/561.html
「……ズ………さい……ゥ~…」 寝ているルイズの頭に何か声が聞こえるが寝起きが壊滅的に悪いルイズだ。当然この程度では起きはしない。 「…イズ……なさい……フゥ~…」 今度はさっきよりも大きく、そしてはっきりと聞こえた。妙に重圧感のある声だったのでさすがのルイズも目を開ける。 「ルイズや…起きなさい…ブフゥ~~」 辺りを見回すが何も居ない。だが景色には見覚えはあった。生まれ故郷のラ・ヴァリエールの屋敷の中庭だ そして何故かベッドがそこにあった。 何故ベッド?とルイズが頭に「?」マークを浮かべていると突如 グォォォオオォォ という音と共にベッドに四肢と頭が生える。 ベッドが突然縦も横も巨大な男になったのである。正直言ってビビる。そりゃあジョルノだってビビる。 「……あんた…誰?」 恐る恐るサモン・サーヴァントをし平民を召喚した時のように目の前の男に問うがその返答は実に意外だったッ! 「ブフゥ~~…私はあなたの杖の精です…ブフ~~~」 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ」 そう叫び一目散に逃げる!自分の杖の正体がこんなのだったのだから半泣き、いやもうマジ泣きだ。 「ブふぅ~逃げないで、逃げないでっていうか引かないで。ブフ~~~ 今日は私…ブフゥ~~~爆発を起こしてもめげずに頑張るあなたを応援しにまいりました。ブフゥゥゥ~~」 さすがに応援という言葉にルイズも立ち止まる。 「さぁこの精霊様に何でも言ってみさないブフゥゥ~~っとね」 「そ、それじゃあ精霊様!一つだけ聞きたい事があります! わたくし…使い魔が問題を起こし続け酷い有様です…この先ずっと問題を起こす使い魔なのでしょうか?」 さっきまで思いっきりドン引きし逃げようとしていたのに現金なものだが、当の精霊様の返事は 「もぐ、もぐもぐ…まーねぇ。ブフゥ~~」 クラッカーを食べながらそう即答した。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」 もうさっきよりもマジ泣きしながら逃げ回る。顔から色んな汁とか出しながら。 「ま、待ちなさいルイズ!…ブフゥ~今の無し、ノーカン!ノーカン!ブフゥゥゥ」 焦りつつも自分の指ごとクラッカーを食べる精霊様がマジ泣きして逃げるルイズが思わず足を止める言葉を吐き出す。 「ルイズ…ブフゥ~~よくお聞き。寝ている場合じゃあないのよ。ブフーーー 今、君たちにディ・モールトデンジャーが迫っているのだよ。ブふーー」 「……え?……ディ・モールトって何ですか?」 「ブフゥ~~…『非常に』ってこと」 「………デンジャーって?」 「『危険』なこと。ブフ~~~」 「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ」 「寝ながら何喚いてんだ…ウルセーから起きろ」 目を開けると悪夢の元凶がそこに居た。 覗き込むようにして起こされたため思わず顔が赤くなる。 「……あんたが原因よ」 「そいつは悪かったな」 もちろん、クラッカーの歯クソほどにも悪いと思ってはいないのだが。 「…ってなんであんたがここにいるのよ?」 ドアには鍵が掛かっており鍵を持っているワルド以外入ってこれないはずだ。 「人がベランダで月見ながら酒飲んでるとこにアホみてーな叫びがしたから来てみればっつーわけだ」 よく見れば窓が開いている。つまりそこから入ったという事だ。 「不法侵入じゃない…ワルドに見つかったらどうするのよ!?」 「使い魔扱いしといて今更でもねーだろうが」 「…実際、使い魔なんだから仕方ないじゃない」 それに返事せずに部屋から見える普段とは違う一つになった月を見る。 「大きさは違うが…一つだけだとイタリアで見るヤツとあまり変わんねーもんだな」 もっともその心中は(ギアッチョがこれ見てりゃあ間違いなく『引力を無視してんじゃあねぇ!コケにしやがってッ!ボケがッ!』とブチキレてるだろうな)であるが ルイズの方はそれを別に受け取っていた。 「…イタリアって所に帰りたいと思ってるの?」 「…戻る手段がありゃあな。あっちではオレの残りの仲間が命を賭けて戦っている オレが生きてるのに戻らないってわけにもいかねーからな。だが、今のとこ戻る手段が無い以上オレの任務はオメーの護衛だ」 「……悪かったわよ」 「何がだ?」 「…わたしが『ゼロ』のせいで、そんな大事な事してる時にこっちに呼び出しちゃって」 一瞬訪れる気まずい沈黙。だがそれを打ち破ったのはプロシュートだ。 「言ったろーがよォーーーオメーに召喚されてなけりゃあオレも死んでたってな それにだ。オメーはまず『自信を持て』…『自信』を持っていいんだぜ!オメーの爆発をよォーー」 「…それって褒めてるのか貶してるのかどっちなのよ?」 「あの爆発をマトモに食らえば人一人軽く消し飛ばせるからな」 「ok貶してるって事ね?ちょっとそこに座りなさい。ご主人様を貶すって事は躾が必要なようだから」 どこからともなく鞭を取り出すが依然としてプロシュートは冷静だ。 「今のでキレるってギアッチョかオメーは、一体何歳だよ」 「16だけどそれが何か関係あるのかしら?」 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴという音とドス黒いオーラを噴出させているルイズだがプロシュートは別の事で飲みかけのワインを思いっきり咽ていた 「ガハッ!ガッ!ゴフッ!……マジかよ?精々12~14ぐれーだと思ってたが」 ボスの娘―トリッシュ(プロシュート達は名前を知らないが)ですら15である。あのルイズをそれより年下と思っているのは当然だッ! 「な、なななななんですってェーーーーーッ!そ、そそそそう言うあんたは何歳なのよォーーーーーッ!!」 「…22だ」 そう聞いて今度はルイズがぶっ飛ぶ番だった。 「OH MY GOD!28ぐらいだと思ってたのに人の事言えないじゃない!」 プロシュートの爆弾発現に思わずさっきまでの怒りがどこかに消し飛んだ。 「ウルセーな…そういやあのワルドってのはどうなんだ?」 「ワルドは…確か26のはずよ」 「お前……あの髭よりオレを上と思ってたってのはどういう事だよクソッ」 思わずギアッチョの口癖がうつったが気にしない。 「確か婚約者とか言ってたな」 「昔、わたしとワルドの父が交わしたのよ。確かに憧れてたけど十年前別れて以来会ってなかったから正直どうしていいのか分からない…」 (6と16って地球じゃあ犯罪だぜ?おい) さすがにこれは文化と価値観の違いなので口には出さないが若干引いている。 「……ワルドから結婚を申し込まれたんだけどどうしたらいいと思う?」 「…憧れてたんならすりゃあいいじゃあねーか。まぁオレに聞かねーと結論が出ねーようじゃあ止めといた方がいいな」 「自分でもよく分からないのよ…ずっと憧れてたのに…何かか心に引っかかる…」 「オレが言えるこたぁテメーで選んだ選択を後悔するような生半可な『覚悟』はすんなって事だ」 「…その覚悟っていうのがよく分からないから聞いてるんじゃない」 「言葉じゃなく心で理解するもんだから説明できるもんじゃあねぇ」 それを最後に言葉が途切れるがその沈黙も長くは続かない。 「チッ…!ナイフを土くれに変えたっていうから予想はしてたがな」 プロシュートの視線の先には月を遮るようにして巨大な物体がそこに存在していた。 月明かりをバックに写るは巨大な人型。さらによく見ればそれが岩で構成されている事が分かる。 そしてその巨大な質量の上に鎮座している長い髪の人物は―― 「オメーか『フーケ』。どうやって脱獄したか知らねーが…今回はババァになるだけじゃあ済まねーぜ?」 「感激だわ。覚えててくれたのね」 「心配するな、すぐに忘れるからよ。…ただしお前が『老化して』オレをだ」 「お、お礼をしにきてあげたのに、あ、あああいかわらずおっかないわね……」 その言葉に手を掴まれ己の体が急激に朽ち果てていくような感覚を思い出したのかフーケが怯む。 「白仮面とマントの男ってのがそいつか…随分と手の込んだ真似をしてくれるな」 フーケの横にその男が立っているが何も言わない。いや言わないが身振りで『やれ』と言っているようだった。 「それじゃあ、わたしからのお礼を受け取って頂戴!」 「土産なら必要ねぇッ!」 その言葉と同時にゴーレムの拳でベランダが粉砕されるがそれよりも早くプロシュートがルイズの腕を掴み部屋を離脱していく。 だが階段を降り一階に向かうがそこも戦場と化していた。 ワルド達が下で飲んでいたのだがそこに傭兵の一部隊に襲われたのだ。 ワルド、タバサ、キュルケが応戦しているが数があまりにも違いすぎ手に負えないでいる。 床と一体化している机の脚をヘシ折りそれを盾にしているが 傭兵たちは手練でメイジとの戦い方を心得ているらしく、緒戦の応酬で魔法の射程を見極め、その射程外から矢を射かけてくる。 傭兵側が暗闇を背にしているというのも不利な点だった。 「これじゃあジリ貧ね…!」 魔法を唱えようにも少しでも姿を見せればそこに矢が射掛けられる このまま行けば間違いなく精神力が途切れたところに突入され突撃されるのは自明の理だ。 「この前吐かせた連中もこいつらの仲間ってわけか」 そこに二階からプロシュートとルイズが降りてくる。身を隠そうともしないプロシュートに矢が飛んでくるが全てその手前で止まっている。 グレイトフル・デッドでガートしているのだ。そしてそのまま机の影に滑り込む。 「この様子だとラ・ロシェール中の傭兵が集結してるみたいだね」 入り口の先にはフーケのゴーレムの足も見え下手すればこのまま建物ごと潰される恐れがあり、それがプロシュートとタバサを除いて焦らせていた。 「いいか諸君。このような任務では、半数が目的地にたどり着けば成功とされる」 タバサが本を閉じ自分とキュルケを杖で指し「囮」と呟く そしてプロシュート、ルイズ、ワルドを指し「桟橋へ」と呟いた。 それに応えるかのようにしてワルドが裏口にまわるように促すが、プロシュートは動こうとはせず口を開いた。 「囮ってのは悪くねーが人選ミスだ。タバサとキュルケだけで支えきれるもんでもねぇ。…だがオレとタバサが居りゃあ5分でカタが付く」 「言ってくれるな…だが、君がそれでいいというのなら任せよう。裏口に回るぞ」 ルイズはあの時以来のアレを使うつもりだと思っていたが、そこにプロシュートが自分のために囮を買って出たという吊橋効果もいいとこな思考でキュルケが口を挟む。 「ダーリン…あたしのために…無事会えたらキスしてあげるから死なないでね」 「オメーのためでもねーし、その呼び方は止めろ」 三人が姿勢を低くし移動する。当然矢が飛んでくるがそれはタバサが風を使い防いでいた。 「どうして貴方が囮に?」 「確か二つ名が『雪風』だったな。氷を作れる事と、何より口が硬そうってのがある 対応策を知ってるヤツは少なければ少ないほど良いし合流するのに竜が使えるからな…」 「氷?」 「老化を抑える」 それだけ言い放ち広域老化を仕掛けようとするがそれをタバサに止められた 「あそこにも人がいる」 そう言って杖で指した方向には貴族とここの主人がカウンターの下で震えていた。主人に至っては腕に矢を食らっている。 氷が作られるのを確認すると無言で貴族の客と主人に氷を投げつけ、1~2発頭に当たったのか貴族が文句を言おうとするが 「死にたくなけりゃあ黙って持ってろ」 その、スゴ味の効いた声に全員が押し黙る。 そしてタバサが自分の氷を作ったのを確認すると己の分身の名を宣言するかのように叫んだ。 「ザ・グレイトフル・デッド!」 突入を仕掛けようとしていた傭兵達の動きが急激に鈍くなる。 クソ重い鎧を着込みこちらに矢を射掛けているのだ。当然――フルスピードでカッ飛ばした車のように『温まって』いる 「頭痛がする…吐き気もだ…この俺が気分が悪いだと…?疲労感で…立つことができないだと……!?」 それに呼応するかのように次々と自らの鎧の自重に耐え切れず崩れ落ちる傭兵達。 それを巨大ゴーレムの上で見ていたフーケだが正直気が気ではない。 「傭兵達が倒れていくって事はあの使い魔が残ったって事ね… それにしても、あんな魔法反則じゃあない…無駄に範囲が広いし射程に入ったら即あんな風になるわね…」 「分散させる事ができれば問題無い」 「あんたはそうでも、わたしはそうはいかないさね…あいつに掴まれた時の事は今でも夢で見るんだから…」 「……よし、俺はあいつを相手にする」 「…わ、わたしはどうすんのよ」 フーケが眼下の惨状に恐怖しつつ引きつりながら男に問う 「好きにしろ。逃げようとも前の勝手だ。合流は礼の酒場で」 男がゴーレムから飛び降りると倒れている傭兵を避けるかのようにして宿屋に入っていく。 「何考えてんだか…勝手な男だよ」 そう苦々しげに呟くフーケだが攻撃を仕掛けるか逃げるかまだ迷っているようだった。 だが、さすがに傭兵達の悲鳴が地の底から聞こえるようね呻き声に変わった時決断は決まった。 「………逃げるんだよォーーーーーッ!スモーーーーキィーーーーーーーッ!」 ゴーレムをジョセフ・ジョースターのように走らせその場を離脱した。 「…片付いたようだな」 酒場の中はスデに阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。 なにせ鎧姿の傭兵達が全て倒れ伏せ呻き声をあげている。 大半は生きているようだが体が温まっているのだ。寿命が尽きるのは目前だった。 だがそこに一人、仮面の男が乱入してきた。 (新手か…!?…老化してねーようだが氷でも持ったか?) 広域老化で老化してないのなら直しかない。即座にそう判断し接近戦を仕掛けるべくデルフリンガーを抜き距離を詰める。 「やっと…俺の時代が…長かった…冬が…」 白仮面の男が黒塗りの杖を握ろうとする。剣を振ったのでは間に合わない。そう判断し突進しつつ蹴りをブチ込み酒場の外に吹っ飛ばした。 「チッ…!さすがに杖は離さねーか」 吹っ飛ばされながらも杖はしっかり握っておりプロシュートに向き直り杖を構えている。 「兄貴ィ!魔法が来る!」 白仮面が呪文を唱えているがデルフリンガーに言われるまでもなく男との距離を詰めようと駆け出している。 右手に持ったデルフリンガーで斬りかかる。甲高い音が鳴り響き白仮面が杖でこれを止めている。 だがこれは陽動だ。人間見えているものに注意がいけばそれ以外の場所が疎かになる。 「…掴んだッ!」 プロシュートの左手が男の腕をガッシリと掴んでいる。直触りを仕掛けようとしているのだ。 手加減の必要など微塵も無い。スタンドパワー全開の直触り。白仮面の男は確実にミイラになるはずだった――― 「…何の真似だ?」 だが白仮面の男は老化した気配など微塵も見せずにそう答える。さすがのプロシュートもこれには動揺したッ! 「バカなッ!直触りを受けて『老化しない』だとッ!?」 「兄貴ィ!ヤベーぜッ!そいつから離れて構えてくれッ!」 だが、遅かった。離れた瞬間、白仮面の男周辺の空気が冷え空気が弾け閃光がプロシュートの体を貫いた。 「~~~っがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 「兄貴ィィィィィィィイイイ!『ライトニング・クラウド』かよぉ!」 一瞬意識が飛びそうになるがそうなれば傭兵達の老化が解除される。それだけは避けようとし意識をギリギリのところで意地するが正直ヤバイ。 「たまげたな…今のを受けてまだ生きているか」 (左腕の感覚がねーな…おまけに直を受けて老化しないだと?話てるって事はゴーレムの類じゃあねーしどういうこった!?) 生物である以上グレイトフル・デッドの老化からは逃げられないはずだ。ましてこの男は魔法まで使っている。 いかに体を氷で冷やしていようとも直触りを受ければ確実に老化するはずなのだが、こいつは老化してない。それが珍しくプロシュートを焦らせていた。 白仮面の男が第二撃を仕掛けようと呪文を唱えようとする。だがそこに上空から風の塊が白仮面の男を襲い吹き飛ばした。 「早く乗って!」 タバサがシルフィードの上から『エア・ハンマー』を唱え白仮面の男を吹き飛ばしたのだ。 一瞬白仮面の男を見据えるが、すぐに考え直す。 (どういうわけか知らねーが直が効かない以上老化は役に立たない…か。腕もヤバイし時間稼ぎは達したな) そう判断しシルフィードに飛び乗る 「直が効かない理由は分からねーが…この借りは兆倍にして返すぞッ!」 その言葉と同時にシルフィードが上空に飛び立ったが事実上の敗北と言ってもよかった。 プロシュート兄貴 ― 左腕―第三度の火傷 スーツ損傷率17% ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2288.html
タバサの部屋から場所を変えてシルフィードのねぐら。 さすがにタバサの部屋の窓にシルフィードが張り付きっ放しというのも目立つし なにより声が結構デカイので移動したわけだが、まだ結論は出ていない。 「で、貸すのか貸さないのかどっちだよ」 一応そう質問したが、ぶっちゃけ貸さないと言っても無理矢理借り受けるつもりでいる。 先にもあったが、ギャングが求める答えにNoは無い。『だが断る』や『絶対にノゥ!』は存在すらしていない。 かと言って、自分が出す答えにはしっかりそれがあるのだから自己中心的極まりないというところだろう。 タバサもいい加減この男がどういうタイプか分かってきているので、どう答えても同じ結果になるんだろうなと思っている。 ……思っているのだが、なんだか釈然としない。 百歩譲って韻竜という事がバレた事は置いておくとしても、隠してきた素性とかをシルフィードは勝手に喋った挙句に『おにいさま』とか呼んでるし。 考えてみれば、今までシルフィードと韻竜として言葉を交わした人間は自分しか居なかった。(緊急避難的にガーゴイルにした事は何回かあるが) 面倒だからとはいえこの事はキュルケにさえ秘密にしている。 それなのに、もう開き直りましたと言わんばかりにプロシュートに喋りまくっている。 で、挙句『おにいさま』だ。 ……これは一体どういう事だろうか?自分を『おねえさま』と呼んでいるのだから、それより年上のプロシュートもそうなるのは分かる。 だが、『おにい《さま》』というのはどういう事だ。譲れるとこ譲っても『おにいさん』だろう。 どういう理屈で戻ったのか分からないが、他人の元使い魔なのに主人の自分と同格の『さま』付けだ。 気に入らないとまではいかないまでも、どこか納得いかない部分がある。 もしかしたら、シルフィードの中でプロシュートの方が順序的に自分より上になりつつあるのかもしれない。 ……これがS.H.I.Tッ!……じゃなくて嫉妬とかいうやつだろうか。 まさかシルフィード相手にそう思うようになるとは露にも思っていなかった。 今なら当時のキュルケの気持ちも少し分かるような気がする。 上機嫌でマシンガントークを繰り出すシルフィードと、どうでもよさそうに生返事を返しているプロシュートを見たが 自分以外の、しかも契約も交わしていない人間にああも懐くというのは、なにかこう複雑な気分だ。 もし、契約の力が切れたりしたらシルフィードは変わらずに居てくれるだろうかとか色々考えさせられてしまう。 無論、そのあたりの事は表情には出さないが とりあえずプロシュートに言ってもどうにもならないのでシルフィードへ矛先を向ける事にした。 「きゅい!?お、おねえさま、なにをー!?」 無言でてけてけとタバサが近づくと両手に持った杖をシルフィードの額に何度かぶつける。 さすがにタバサの腕力で竜に大したダメージがあるはずもないが、唐突に行われた行為にシルフィードも面食らっている。 抗議も無視して杖と額がぺしぺしと小気味良い音を立てているが 叩かれる理由に気付いたのか少しばかり落ち着いたシルフィードが返してきた。 「……もしかしておねえさま、シルフィが楽しそうにおにいさまとお話してるから怒ってるの?」 シルフィードからすれば、プロシュートをそう呼んでいる事に大して意味は無い。 ただ単に、デルフリンガーが『兄貴』と呼んでいた事と、凄い力を持ってタバサの事を手伝ってくれそうな人という事でそうなっているだけである。 「別に怒ってない」 「きゅい?それじゃあなんで叩くのね?」 その疑問への答えは無い。というより、タバサにしては珍しく答えに窮しているようで少し考え込んでいたりする。 「…………」 「……………」 シルフィードとタバサの間に数秒の妙な沈黙が流れる。肝心のプロシュートはオレの方の質問に早く答えろよ。という具合なのだが。 「か、かわいい……」 と、そこに小さいシルフィードの声。心なしか声が震えているのは気のせいではないだろう。 「そんなおねえさまもかわいいのねーーー!」 その声に一拍遅れて思いっきりシルフィードが叫ぶ。 場所を変えていて正解だったというところだろうが、さすがに少し五月蝿い。大体高度3千メイル以上での発声は禁止してたのにもうどうでもいいのか。 幸い周りに人は居ないからいいようなものの、これにはさすがのタバサもシルフィードを睨み付けた。 「大丈夫!シルフィはおねえさまが一番なのね!きゅい!」 最高にハイ!というのはこの事だろうか。柴○亜○先生の絵柄なら間違いなく某ドクターT顔負けの鼻血を出しているはずである。 ぶっちゃけタバサの抗議なぞ全く意に介していない。 今にも『お持ち帰りぃ~~』と言わんばかりに悶えていたが唐突にタバサの横にその巨体を座らせると何かの呪文を唱え始めた。 『我を纏いし風よ。我の姿を変えよ』 聞きなれない。どちらかというと、メローネズコレクションの一つであった日本の漫画に出てくるようなやつだ。 風がシルフィードに纏わりつき、青い渦がそれを包む。 何らかの魔法だろうと思ったがプロシュートの興味は薄い。亀ですらスタンドを使うご時勢だ。 人語を解するシルフィードが魔法を使おうがそれは想定内の出来事である。 ……まぁ裸の女が現れるとまでは思っていなかったが。 そして、そのままタバサを押し倒した。 「このからだならおねえさまを潰さずにすむのね。きゅいきゅい」 そう言いながら頬ずりをしているが、傍から見ればただの変態だ。 とにかく離れさせようとタバサが小さくため息を付き、傍らに落ちていた杖を無言で掴むと横にあった頭を叩いた。 「いたい!?いたいよぅ。シルフィおねえさまに嫌われちゃったの?」 「そうじゃない」 「なら問題ないのね」 そういう事以前に離れろと言いたいのだが、タバサがそれを言うより先に別の所から突っ込みが入った。 「オメーらの漫才なんざどうでもいいんだがよ」 「きゅい?」 頭を掻きながらそう言ったが、なんかマジにどーでも良くなってきた。 もう全部纏めてブッ殺したッ!で綺麗サッパリ済ませてーな、とも思ったが耐える。 とりあえず、このクソ厄介な出来事の領収書は後で全部ルイズと才人に回す事にして一応納得しておく事にした。 そうでも思わないと多分、この先やっていけない。 「シルフィのとっておきなのに、おにいさまあまり驚いてないのね?」 「剣が口利いて、バカデカイ島が空に浮いてんだ。例えポルポの隠し財産が沸いて出ても驚きゃしねぇ」 何でもアリが前提のスタンド使いであるからには多少の事では驚きはしないのだが それ以上にブッ飛んだ世界に慣らされてしまったため、もうこの程度では驚かないようになってしまった。 なお、もう一度言うが今のシルフィードは裸である。それも召喚者とは違って出るとこは出て締まるとこは締まっている。 町を歩けば10人中9~8人は振り向くであろう事確実なのだが、どうやらそのあたりもどうでもいいらしい。 パッショーネの特攻隊とも言える暗殺チームに属していただけあって、元が竜であるしその裸ごときで動じるはずがないのだ。 というか、敵であるならこんな状態でも迷い無く攻撃する事ができるし むしろ、このクソ忙しい時にややこしい事やらかしてんじゃねーよという具合である。 まぁペッシなら話は別だし、メローネならディ・モールト!とでも叫んでそうだが。 そろそろ言葉でなく肉体言語で強制的に分からせてやろうかと思ってきたが、上の方からフクロウが飛んできてタバサの頭の上に留まった。 もうこの世界お馴染みの伝書鳩ならぬ伝書フクロウという事ぐらいは分かるので、押し倒されている状態のタバサより早く書簡を奪う。 「人形…七号?……意味が分からん」 ルイズん家である程度文字が読めるようになったが、人形七号と書かれていてもなんのこっちゃと理解できるもんではない。 そうしていると、物凄く嫌そうな声でシルフィードがその疑問に答えてきた。 「あの憎たらしい従妹姫がおねえさまを人形って呼んでて、七号というのは北花壇警騎士団の番号なの」 やけに『憎たらしい』を強調してきたので、基本的に人懐っこい方のこの韻竜にしては珍しくマジに従妹姫というのが嫌いなのだろう。 「花壇?汚れ仕事専門のチームにんな名前付けるたぁ随分と悪い趣味してんな」 「きゅい…チームじゃなくて騎士団なのね」 騎士団だろうとチームだろうと、あまり変わりはないので訂正する気にもなれないが、やはり貴族の感性というのは理解しがたいもんがある。 オレらなんざ護衛チームとか暗殺チームとかそのまんまだぞ?どういうこった北花壇ってのは。 そう思ったが言うと余計ややこしくなりそうなので口には出さない。 「で、結局のところ、こいつはどういう意味だ」 「う~……つまり、今頃あの小娘が『あの人形娘はまだなの?』とか言いながら召使をイジメてる頃だから……」 「早い話、任務ってわけか」 きゅい、と言いながら頷くシルフィードを見たが思わず溜息が出た。 ったく…次から次へとメンドクセーことばっか起こりやがる。 そう思ったものの、タバサ本人や家族の命にも関わる事なので本人がそれを無視する事はできない事ぐらい分かる。 かと言って、このまま何も行動しないというのも非生産的である。 「他にアテもねーし、ただ待つってのも性に合わねぇ。オレも行くぜ。第一そっちのが早く済むからな……」 「お金が無い」 「おねえさまはいつも新しい本を買い込むからそうなるのね。そんなのだからシルフィのご飯もままならないの」 そんなタバサとシルフィードのシビアな現実問題を聞いて顔を下に向けてプロシュートが少し笑った。 こいつマジにオレ達と同じか。と、思えてきたからだ。 何故なら暗殺チームも金が無かった! 収入源はシマを持たずボスからの仕事内容に見合わないような報酬のみで基本的にリゾットが必死にやり繰りしている状態だった。 組織に反感を抱いた原因の一つであるだけに、余計そう思える。 「ま……試用期間ってやつだ。金は気にしなくていいぜ」 「ガリア?なんでまた急に」 学園に戻ってオスマンを蹴り倒しているフーケにガリアに向かう事を告げたが、まぁ当然の反応というやつだろう。 「理由が必要か?」 「当たり前じゃないか」 適当な理由をでっち上げてもよかったが、タバサの任務付いてった時点で何かしらバレるし、何よりそこまで考えるのも面倒だ。 「そいつは元王族で知り合い連中に汚れ仕事でコキ使われてる。ついでに言うならこいつの使い魔も韻竜ってやつだ」 プロシュートがそう言った瞬間ゴフォ!と飲んでいた水タバサが盛大にむせた。 そりゃあ、あれだけ人が必死になって守っていた秘密をあっさりとバラされたのだから無理も無い。しかもよりにもよってフーケに。 「こいつも付き合わせるつもりだからな……。どうせバレるもんはバレる。なら先に言っといた方が余計な所でボロ出さなくていいだろうが」 さすがに文句を言おうとしたタバサもこれにはぐうの音も出ない。正論と言えば正論である。 フーケを置いていけばいいのだが、どうやら逃走防止のために連れて行くようでガッシリと肩を掴んでいる。 「いい加減、それ止めて……そんなに信用されてないのかね……?」 「オメーの実力は信用してやるが、まだ逃げないと思ってるわけじゃあねぇしな。 最初にオレら全員殺す気だったくせになに贅沢言ってやがる。なんならムショにでも入って待つか?ある意味一番安全な場所だぜ?」 「遠慮するよ……」 ブフゥ~~~というやたら暑苦しい息が聞こえてきたので全力で拒否したが、本気で疲れてきた。 「……他には誰にも言わないで」 しばらく思案してタバサがそう告げたが、それでも不安だ。先もあったようにフーケと言えば盗賊でそうそう信用できる相手ではない。 その様子に気付いたのか、これ以上無いぐらい簡単に、そして最大級に抑止力を持つ言葉でプロシュートが言い放った。 「気にすんな。万が一洩らしたりすりゃあどうなるかは……こいつが一番よく知ってるからよ」 ――畜生……知りたくなかった!聞かなきゃよかった!! 少し強められた手の力とその言葉に本気でそう後悔したが、もう遅い。 知りすぎると大概ロクな事が無いというのは世界を問わず共通の事象である。 これで人が居る場所でおちおち酒も飲めなくなってしまった。酔った拍子でこの事を喋ってこの物騒なヤツに狙われるなど洒落にもならない。 もうすっかりヤムチャと化した盗賊を放っておくと、キュルケがこちらに近付いてきた。 「よぉ。さっきの続きでもしにきたか?フーケならそこで腑抜けてるがさっきみてーな目に合いたくなけりゃあ別の場所でやれよ」 そう言うと、キュルケが笑いながら両手を広げる。 「冗談。それだけはもう二度と御免被るわ。先生から預かった物があるの。それを渡しにきたわ」 放り投げられた革袋を受け取ったが、感触で中身を理解した。 「何だ、この金は?」 一応中身を見たが、それなりの額が入っている。 今まで独身で研究以外の趣味のなさそうなコルベールなら出せてもおかしくは無い額だったが 理由も無しに金だけ渡されても乞食扱いされてるようで何か知らんがムカつく。 「それともう一つ、言付けがあって『アルビオンに渡るならミス・ヴァリエールとサイト君の事をよろしく頼む』だって」 「依頼って事か?こいつは。それより何であのハゲ、オレがアルビオン行くって事知って……オメーか」 現在、目標がアルビオンにある事を知っているのはオスマン、タバサ、フーケ、キュルケの四人。 となると、後は消去法でオスマンかキュルケしかいなくなり、さっきまでコルベールに付き添っていたキュルケが情報を漏らした事になる。 別に機密情報というわけではないのでどうこうする気もないが、さてどうしたもんかと少し考える。 この件に関しては、元々カトレアからも結構金貰って頼まれているからだ。 無論、余裕があれば、との条件付きだが元プロとして依頼の二重受領というのもどうかと思わないでもない。 まぁだが、金はいくらあっても困るもんではないし、くれるというのなら貰っといた方がいい。 「先にくたばってたりしてたら責任取らねーし、金も返さないがな。で、そっちはどうすんだよ。ここで匿うつもりか?」 「さすがにそれは限界があるだろうから、あたしの実家で匿う事にするわ。『自分達を庇ってくれた先生を手厚く葬るため』っていう口実もあるしね」 「で、その先生を殺ったオレは速やかに逃走を実行した方がいいってわけか?」 少量の皮肉と冗談で割った言葉だったが、どうやら本気に捉えられたようで珍しくすまなさそうにしている。 「ったく……たまに言うとこれだ。オレがそんな事気にするようなタマなわけねーだろうが」 普段、一般人が聞いたら冗談に思えるような事でも本気でやろうとしているのだから 急にそういう事を言われてもそう受け取れるはずがないという事を全く理解していないから余計性質が悪い。 ようやく何時もの調子を取り戻したのか目を細めて笑うと、少しタバサと二人にして欲しいと言ってきた。 それに関しては邪魔する気もないので、そうさせてやろうと、場を離れる事にした。 ……フーケをスタンドで無理矢理引っ張りながら。 「丁度いい機会だ。オメーにも『ギャングの世界』ってのを教えてやる。ありがたく拝聴しろよ」 「わたしは盗賊だって!なんなのさギャングって!!」 「似たようなもんだろーが。まずはおさらいだ。LESSON1『ブッ殺した』なら使ってもいいッ!」 「LESSON1からそれ!?」 そうしてキュルケとタバサの話が終わる頃にはギャング的教育LESSON4まで進み少しばかりやつれたフーケが地面に倒れ伏せていた。 ガリアの首都リュティス。 トリステインの国境から千リーグ程離れているがシルフィードならそう時間は掛からない。 と言っても、色々あったので到着は夕方ぐらいになってしまったのだが。 ハルケギニア最大の都市で人口三十万と言われてもプロシュートにはあまりピンとこない。 まぁネアポリスやヴェネツィアと比べればこの世界のあらゆる都市はド田舎という扱いなのだから仕方ない事だ。 無論、プロシュートとフーケは城に入るわけにもいかないので、ヴェルサルテイル宮殿近くの郊外の森で待機している。 ただ待っているのも暇なのでLESSONを再開しようとしたが これ以上やるとイルーゾォみたいに鏡の中にでも引き篭もりそうだったのでガリア関係の情報を引き出す事で手打ちにする事にした。 「ガーゴイル?オメーのゴーレムとどう違うんだよ」 「ゴーレムが命令をしなけりゃ動かなかったりしないのに対して、ガーゴイルは自分の意思で判断して動けるって事だね」 「自動遠隔操作型スタンド。ベイビィ・フェイスの息子みてーなもんか」 魔法で擬似生命を与えられた自立式の魔法人形。スタンド能力で擬似生命与えられた遠隔パワー型のベイビィ・フェイスと共通点はある。 厄介なのが、これも精度が高いと生物の見分けが付かないらしい。 老化が効かないのがこれまた厄介で、やはり息子を思い出させてくれる。 そうこうしていると上の方から翼の音が聞こえてきた。 シルフィードが小声でぶちぶちと文句を垂れているあたりどうやらロクな任務じゃなさそうだ。 「わざわざ呼び出しまで食らって受けた任務ってのは何だよ?暗殺か?」 「……いきなり暗殺ってあんた一体何やってたのさ」 任務=暗殺とかフーケですら考えはしない。相当ヤバい事に足突っ込んでた証拠だ。 「聞きたいのか?ま…別に隠すような事でもないんだがな」 「いーーや、聞きたくない。どうせロクでもない事やってたんだろ?」 「人の事言えねーだろ。専門はあ」 「それ以上言うなァーーーーーッ!」 大声を出してプロシュートの言葉を遮ったが、素面で暗殺が仕事だったとか聞いたらただでさえそうなのに胃に穴が開きそうだ。 「ルセーな…そんなたいした事ァねーだろうがよ……で、任務ってのは?」 色んな意味で限界突破しそうなフーケを放置して任務内容を確認するためにそう聞いたが返ってきたのは実に意外な答えだった。 「タマゴ」 「……あ?」 タマゴってのはアレか。あの卵か。割ると白身と黄身が出てくるどこにでもあるあの卵か。 プロシュートのそんな様子に気付いたシルフィードがさらに付け加えてきた。 「おねえさま、タマゴだけじゃ分からないのね。あの最悪姫は極楽鳥のタマゴを取って来いって言ったのね」 まぁこのブッ飛んだ世界の事だからただの卵ってわけでもないだろ。極楽鳥ってからには万病に効くとかいう効果があるのかもしれねぇ。 と一応の納得はしておいたが、ある事に気付いたフーケが口を挟んできた。 「……確か極楽鳥のタマゴって今の季節は旬の時期から外れてるはずだけど」 フーケの言葉の中にやたらくだらない内容の言葉があったような気がしたが、聞き間違いかと思って一応聞き返す。 「オメー今、旬とか言ったか?言ったよな?言ったな?どういうこった?ええ?」 「え?ああ、極楽鳥ってのは一年に二度タマゴを生むのさ。 幻の極楽鳥のタマゴって言われてて、その味のせいでかねりの値がする代物だよ。一度貴族から盗んだ事があるけど味は知らないね。売ったから」 このアマ今、味とか言いやがったか。つまり今回のタバサの任務の理由ってのは……。 「美食」 「『たかがわたしの美食のため』とか言っておねえさまを火竜の住処に行かそうなんて意地悪姫にも程があるのね!きゅい!」 そうタバサとシルフィードが言った瞬間何か知らないが、やたら小気味良い何かが切れたような音が聞こえたような気がした。 特に気にしないでいると突然フーケが襟元を引っ張られる。 「な、何するのさ!?」 そんな抗議も無視してずーるずると引き摺るように引っ張っていく。 何事かと思い無言で一定の方向を見ながら進んでいくプロシュートの視線の先の物を見たが……見た瞬間冷や汗が思いっきり流れ出た。 進行方向にはヴェルサルテイル宮殿があったからだッ! 「お前何をやろうとしているんだァーーープロシュート!行き先はともかく理由を言えーーーーーーッ!」 「命令出すやつが死ねばこんなくだらねー任務も消えるって事だよな?おい」 そう言い放ち無駄に靴音を鳴らしながら進んでいくプロシュートを見て思考が一層最悪な方向に向かっていく事を感じたが それでもまだ、まさか……?という思いだけは捨てたくはない。 「ストーーーーーップ!冗談よね?冗談って言って!」 「卵だぁ?そんなに食いてーなら極楽に送って死ぬほど食わせてやる」 引き摺られながらも必死に抵抗するが、地力の違いがある上にスタンドでも掴まれているため地面に後を残しながら引っ張られていく。 なんかもう、プロシュートの全身が黒い影のように見えるのはテンパりすぎての幻覚かなにかだろう。 「はーーーなーーーせーーー!大体あんた一人で十分だろ!わたしを巻・き・込・む・な!」 射程半径が200メイルもあるんだから仕掛けるにしても一人で十分だろ。 という事から出た必死の抗議だったが、無常にも次の一言で見事に撃破された。 「ガーゴイルっつーんだったか?その始末をオメーに期待してんだよ」 (こいつ本気かァーーーーッ!確実にわたしを巻き込んで正面からガリアと戦争おっ始めるつもりだッ!!) ――もう止めて!姉さんの胃のライフはゼロよ! ゼロどころか、もうスデにマイナスに突入しているだろ、という突っ込みは置いといて そんなお馴染みの幻聴まで聞こえてきたが、本人は今頃胸を揺らしながら家事に勤しんでいる事だろう。 確かに、こいつの能力ならメイジでも百人単位で相手できるだろうが、氷という致命的な対応策がある。 もしそれがバレでもしたら相当厄介だ。ガーゴイルとかもいるし。 捕まりでもしたら遠島どころじゃ済まない。死刑で済めばまだいい方だろう。 最悪考えられるありとあらゆる拷問を受けて晒し者という事も十二分にありえる事だ。 逃げられたとしても追われる事になる。その事に関しては今でもそうだけどハッキリ言ってレベルが違う。 並みのメイジの2~3人ならどうにでも始末できるが、国に喧嘩売った相手に並みのメイジが追っ手になるはずがない。 この国自慢の花壇騎士団総出で掛かられてはどうにもならないのだ。 いや、こいつはいいよ。杖なんかなくても能力が使えて自分の年齢をも自由に変えられる上に射程も長いから追っ手なんかどうにでもなる。 つまり貧乏くじを引くのは自分一人であまりにリスクが高い。 かと言って、逃げるという選択肢も無い。恐らく、逃げようとしたりしたら即老化を叩き込まれる。 宮殿が射程内に納まってしまえば確実にアウトだ。間違いなく自分も共犯に見られるハメになる。 唯一の望みはバレないように暗殺してくれる事だが、この男の性格的にも能力的にそんな事するはずがない。 Q.ある集団の中に紛れて暗殺対象が居ます。どうやって対象を始末しますか? という問題があれば間違いなく A.全員始末する。 と答えるようなヤツである。きっと……いや、絶対能力全開で正面から堂々と乗り込むに違いない。 一歩、また一歩と宮殿に近付く毎に絶望感がフーケを襲っていくが唐突に歩みが止まった。 「ダメ」 と、タバサが首を横に振りながらそう言ったからだ。 「何だ?この際、オメーの仇ってのも含めて纏めて始末してやるんだがよ」 最初から広域老化を叩き込む。本来のグレイトフル・デッドの大前提だ。 広範囲で巻き込むなら、ついでに始末してやれば丁度いいという具合である。 「わたしが欲しいのは、伯父の首一つ。他はいらない」 そう小さく呟いたタバサを見て、こいつはオレ達とは違うわ。と前に思った事を撤回した。 暗殺チームなら、目的のためなら必要があれば一般人だろうと遠慮なく巻き込む。 無論、進んで攻撃したりはしないが当時はそれだけ必死だった。 「それに、本当なら自分一人の手で仇を討ちたい」 続けてそう言ってきたが声こそ小さいが強い意志を持っている。是非ともペッシに聞かせてやりたい言葉だ。 「つまり、この仕事やってんのは自分を鍛えるためってか?」 その言葉に頷いたタバサを見て、今度は逆に呆れてきた。 過酷な環境の任務をこなしていけば自然と地力も上がり鍛えられる。 一見良い事のようにも思えるが、実際自分達自身がそうだっただけに死ぬ確率の方が遥かに高い事ぐらいは承知している。 それを、このちんちくりんの小娘は昔から当然のようにやっているわけだ。 「ったく……オレの負けだ。依頼の条件って事にしといてやる」 そう言いながらフーケから手を離しかき上げるようにして額の右半分に手をやる。 足元でフーケが小さく『助かった……』と呟きながら荒い呼吸をしているのは気のせいではないだろう。 だが、見た目十二~三のガキに言い負かされっぱなしではない。 タバサに近付くと、その頭を勢いよく叩く。 それと同時にパァンと良い音がし、タバサの頭がぐらぐらと揺れている。 「一人で殺れると思うだけなら、オレらだってとっくにボスを殺れてんだよ。 大体、ボスを相手にする以前に……ブチャラティどもに負けちまったからな」 直接敗れたことを知っているのはホルマジオとイルーゾォだけだが 性格や能力、なにより数の少なさから見て他の連中も一人でブチャラティどもを相手にしたはずだ。 甘く見ていたわけではないが、暗殺チームに属するだけあって単独行動向けのスタンドが殆どだったというのが最大の理由か。 過程として他の連中も誰かと組んで仕掛ければ結果は変わっていたかもしれない。 例えば、イルーゾォが鏡の中へ引きずり込み、無防備な相手を対スタンド戦闘能力の低いリトル・フィートで攻撃し尋問なり始末なりをする。 または、ベイビィ・フェイスの息子やギアッチョが攻撃を仕掛け、敵が気を取られている隙にリゾットがメタリカで確実に始末をする。 と、組み合わせ次第で戦闘力は何倍にもなる。 もっとも、過去の事をどう考えようとも仕方の無い事だが、これから先の教訓としては覚えておいて損は無い。 特に、これから同じような事をやろうとしているタバサにとっては。 「おにいさまの言うとおりなのね。この前だって、おねえさまの味方してくれる人が現れたのに無視して追い返したし」 「オメーみたいなガキが肩肘張りすぎなんだよ。ちったぁ力抜いた方が身のためだ。くだらねー事はこういうヤツに押しつけりゃいいんだよ」 「今、少しでも良い事言ったなって思った事を全力で撤回させてもらうよ」 こういうヤツと言って指差したのは、もちろん今現在、地面に蹲っているフーケの事だ。 あくまで自分はくだらない事に関わりたくないというあたり相変わらずベリッシモ自己中である。 「……覚えておく」 その相変わらずの無表情で返してきた答えに、どこまで分かってるんだかな。と半信半疑だったが、まぁ今はこれでいい。 とにかくそういう事なら、このくだらねー任務をさっさと済ませてこっちの仕事を片付けねばならない。 かったるそうにシルフィードに乗り込むと、とりあえず当面は火竜を何秒ぐらいで老死させられるかを考える事に決めた。 臨時北花壇騎士御一行――地獄の(何にとっての地獄かは知らないが)火竜山脈ツアーに出発。 イザベラ――危うい所で老死を回避。ただし本人は何も知らない。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/419.html
「召喚成功よ!」 そんな声が聞こえた。 何だ?DIOの手下か?…いや、それはもう終わったことだ。 なぜなら『声』が聞こえてきたからだ『終わったよ……』と だからDIOの手下がおれに襲い掛かってくるとは思えない。 コイツは別の何かだ。そう思っているといきなりキスされた。 「おいおいお嬢ちゃん、いくらおれがカッコイイからっていきなりは無しだぜ?」 そう言って見る。 どうせ人間にはおれが愛想を振りまいてるようにしか見えないんだ。 人間なんて何を言っても同じさ。 と思ったらおれにキスしてきた女は固まっている。 何だ?と思ったがその疑問は自分で解けた。 「あれ?おれ人間の言葉をしゃべってるぞ?」 と言うことは… 「何を言っているのよこのバカ犬~~~!」 やべえ、聞こえてた! その後何とかおれを追い掛け回した女(ルイズというらしい)をなだめたのはコルベールとか言うハゲだった。 よくやったハゲ。そう思ったが口には出さない。 「さすがはゼロのルイズね。使い魔の忠誠もゼロなのかしら?」 おお!ナイスバディなねーちゃん! 「うるさいわねキュルケ!」 そのナイスバディーなねーちゃんはキュルケというらしい。 あとで無垢なふりをしてじゃれて楽しもう。 その隣にいるのも体は貧相だが顔はいい。こっちも唾を付けておこう。 そんなことを考えているとヤバイ事に気がついた。 おれが顔をしかめているのに気がついたキュルケがルイズにそれを教える。 「使い魔の体調管理もできないの?」 「イキナリこんなことになるなんて思ってなかったのよ!」 「はいはい。ホラ、いってやりなさい」 「む~~~~~」 そういいながらこっちに来ておれに話しかけるルイズ。 「どうしたのよ?」 「屁がでそうだ……」 おれは自分の高尚な趣味のために周りを見回す。見つけた。 あの金の巻き髪のやつがいい。 そいつに向かって走り出す。そしてそいつの頭に飛びつき、髪をむしる。 それをしながら屁をこく。ああやっぱりコレは面白い。 おれはそいつの頭を離れた。 「けけけ、決闘だァーーーー!」 うん?何だ? 「何いってんだギーシュ!」 おれが屁をこいたヤツはギーシュというらしい。 「君に決闘を申し込む!」 いきなりだな…だが! 「いいぜ!」 「言ったな!出て来いワルキュー…」 相手がバラを掲げるアレがあいつの武器か?ザ・フールの砂で作った槍でそれを叩き落す。 そして間髪いれずに砂の拳で顔面をブン殴る! そいつは鼻血を吹きながら後ろに倒れた。痙攣しているし気絶したとみて間違いないだろう。 僅か三行で決着はついた。 「スレの楽しみ?知ったこっちゃないね」 そういって正に外道な勝利宣言をした。 To Be Continued… ギーシュ・ド・グラモン―その後医務室でケティとモンモランシーが鉢合わせ、二股発覚の末二人から平手打ちをくらう。
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2401.html
日蝕の日、朝日が地平線から抜け出ようとしている頃。 昨夜から一睡もしていないオスマンは自室の中、式に出席する準備にまだ追われていた。 日程の関係上、一週間は学院を留守にしなければならないのだが、学院長であるオスマンが一週間不在になるということは、それなりに前もって片付けておかなければならない用事が多いのである。 ロングビルがいたなら多少の用事なら彼女に任せても良かったのだが、未だに彼女の後任に相応しい秘書も雇えていない現状では、仕事の全てを自分でこなさなければならないのであった。 「ふうむ、帰ってきたら本格的に秘書の募集を掛けなければならんな。当然有能で美人でちょっとくらいの悪戯は笑って許してくれて……あと、盗賊じゃないのは優先事項にせんと」 ぶつくさと独り言を漏らしつつ、残りの仕事は帰ってきてから終わらせることに決めて荷造りに取り掛かろうとした時、激しい勢いで扉が叩かれた。 「誰じゃね?」 この忙しい時に何事じゃ、と眉を顰めたその時、一人の男が飛び込んできた。 飛び込んできた男の服装で王宮の使者であることを理解する間もなく、大声で口上が述べられていく。 「王宮からです! 申し上げます! アルビオンがトリステンに宣戦布告! 姫殿下の式は無期延期になりました! アンリエッタ殿下率いる王軍は、現在ラ・ロシェールに展開中! 従って学院に置かれましては、安全の為、生徒及び職員の禁足令を願います!」 使者の口上に、オスマンは一瞬言葉を失った。 「……宣戦布告とな? 戦争かね」 皺と白髭に覆われた顔により深い皺が刻まれたが、使者の告げる言葉はなおもオスマンの表情に心痛な色を加えていく。 アルビオン軍は巨艦レキシントン号を筆頭に、戦列艦が十数隻。上陸した総兵力は三千。 それに対するトリステイン軍は艦隊主力は既に全滅、慌ててかき集められた兵は二千。 完全な不意打ちの形を取られたトリステインが集められる兵力はそれで限界であり、しかも制空権は完全に掌握されて取り返せる見込みは皆無。十数隻の戦艦からの砲撃で、士気も精度も劣る二千の兵は容易く蹴散らされるのは火を見るよりも明らか。 タルブの村は竜騎兵によって炎で焼かれ、領主も既に討ち死に。昨日の午後、姫殿下自ら御出陣。深夜のうちにラ・ロシェールに陣を張り、同盟に基づきゲルマニアに援軍を要請したが、先陣が到着するのは三週間後になるであろう……。 息せき切って懸け付けた使者の言葉を疑う余地は何処にもない。 オスマンは深々と溜息をついて、天井を見上げた。 「……昨今条約や同盟というものはインクの染み以外の何物でもないのう。トリステインは見捨てられたな。三週間もあればトリスタニアにアルビオンの旗が上がるじゃろうて」 アルビオンの末路を聞いているオスマンは、トリステインだけは例外だと考えるような夢想主義者ではなかった。滅亡する国がどのように蹂躙されるかなど、考えるまでもない。 (……どうする) 現状で打てる手などない。 必然とも言える流れを覆せるような魔法など、人より長い年月を生きてきたオスマンにも心当たりはない。 となれば、今考えるべきは如何に学院に居る職員や子弟達を、安全に避難させるか。 思考を巡らせるオスマンの脳裏に、二人の男の姿が走った。 もしやすれば、という可能性が浮かび上がる。この話を教えれば、二人とも一も二もなく戦いに赴くことは疑うべくもない。 だが、だが……ウェールズ皇太子はともかく、ジョセフ・ジョースターを巻き込んでいいものか。異世界から無理矢理召喚されただけの老人をこちら側の世界の戦争に巻き込めるのか否か。 ましてジョセフは今日の日蝕で元の世界に帰るのだ、とコルベールから伝え聞いている。 良心と打算が両極に乗る天秤の揺らぎに、知らず呻き声めいた吐息が漏れた。 「ミスタ・オスマン?」 使者の訝しげな呼び掛けにも、視線を向けようとはしない。 「……仔細了解した。今から学院に居る皆に事情を説明する。貴殿も任務に戻るといい」 「はっ」 敬礼して慌しく部屋を辞する使者を見送り、それからまた僅かに逡巡した後、やっとオスマンは立ち上がった。 その足の向かう先は、風の塔。ウェールズが隠れ住む一室である。 黒い琥珀に記憶されているオスマンが階段を登り、ウェールズのいる部屋の扉をノックする。 「開いているよ」 朝早くから椅子に腰掛けて読書していたウェールズは、開いた扉の向こうに立っていたオスマンの姿に少し目を見開いた。 「どうされたのですか、ミスタ・オスマン」 読みかけの本を机に置いたウェールズに、オスマンは静かに口を開いた。 「――レコン・キスタめがトリステインに宣戦布告しました」 アルビオンではなく、レコン・キスタ、と言い換えたのは、当然のことであった。 思わず立ち上がったウェールズの足に押され、椅子がけたたましい音を立てて転がる。 「何と言う事だ……!」 く、と唇を噛み締めたウェールズは、次の瞬間には毅然と顔を上げてオスマンを見た。 「……戦況をお教え頂けますか、ミスタ・オスマン」 オスマンは眉一つ動かさず、使者から伝え聞いた言葉を紡ぐ。 ウェールズは現状を全て聞くと、コート掛けに掛かっていたマントを手に取り、大きく風を靡かせて背に羽織った。 「では、アルビオン王国の生き残りである私は、これより援軍としてタルブ村へ向かわねばなりません。今まで私を匿ってくださり、感謝の言葉もありません」 至極当然に言い切る王子に、オスマンは僅かな瞬間だけ躊躇ったが、意を決して言葉を紡いだ。 「――生憎、学院には幻獣はおりません。馬の足では、今から向かった所で戦に間に合わぬのは明らか。ジョセフ・ジョースターに協力を願う以外、殿下が戦場に辿り着く術はないと愚考します」 「確かにそうですが、彼は此度の戦に何ら関係ないではないですか」 「しかし、貴方が唯一戦場に辿り着く方法を使うことが出来るのは彼しかおりませぬ」 白く長い眉の下から覗く目を、ウェールズは声もなく見据えた。 「……貴方は、無関係の異邦人を戦に駆り立てようと。そう仰るのですか」 腹の中から搾り出したような声にも、オスマンは毛の先程も表情を変えはしない。 「戦場に立てとは言いませぬ。あの飛行機械で、皇太子を戦場へ送り届けてくれと頼むだけです」 瞬きもせず、二人の男が睨み合う。 視線を背けたのは、ウェールズが先であった。 「……私は無様だ。これより家族の元へ帰ろうとする老人に、なおも助けを請う。何と言う……何と言う、恥知らずの男だろうか……」 ぎり、と歯が軋む音が響く。 オスマンはそっと彼に背を向け、己のエゴを憎憎しく思う内心を億尾にも出さず、次の言葉を放った。 「さあ、彼を呼びに行きましょう。我々に残された時間は、限りがあるのですからな」 そして二人は、ジョセフが暢気に寝こけているであろうルイズの部屋へ向かった。 早朝の突然な来訪に、ジョセフは寝ぼけ眼で応じ……タルブの村が燃えたと聞いた時点でゴーグルを手に駆け出そうとしていた。 燃えるような怒りを目に灯し、自分の横を駆け抜けようとするジョセフの肩をつかんだウェールズは、彼の動きを留めるのに必死に力を込めなければならなかった。 「待ってくれ、ミスタ・ジョースター! まさか貴方も戦うなどと言わないでくれ!」 「こんな話聞いて黙って帰ったり出来んだろ!」 「ジョースター君、我々に強要出来る筋合いはないがせめてウェールズ殿下を送り届けてくれれば、それ以上は……」 オスマンとて、ジョセフを戦場に送りたくないのが本心である。 ウェールズが死地に赴くのを止める理由はない。それが彼の望みだからだ。 しかしジョセフは違う。何の関わりもない。 だと言うのに、今のジョセフは輝ける意思を抱いている。決してただ王子を戦場に送り届ける為の勇気ではない。 それは紛れもない闘志、だった。 ニューカッスル城まで付き従った三百のメイジ達と同じ輝きを、この老人もまた抱いていた。 「すまんがこのジョセフ・ジョースター、困ってる友人を見捨てられるほど人でなしじゃあないんでなッ! あのゼロ戦は爆弾はないが機関銃はバッチリ動く! あんだけありゃあ、フネの一隻や二隻くらいは落としてみせるッ!」 気迫と力強さばかりで構成される言葉。手や足に震えはない。 亡国の王子と学院長は、おおよそ同じタイミングで同じ答えに辿り着いた。 『これ以上何を言っても時間の無駄』であった。 死にに行くだけなら止め様がある。戦いに恐れを抱いていればそこから崩す事も出来る。 だが、ジョセフ・ジョースターに一切の揺らぎはない。 レコン・キスタに立ち向かい、勝利を得に行こうとしている。 「……一つだけ聞かせてくれ、ミスタ・ジョースター」 ジョセフの肩に食い込むほど力の篭っていた手を離し、ウェールズは問うた。 「何故、貴方は戦いに赴くのだ? この戦いで名誉を得られる訳でもなく、報酬を与えられる訳でもない。それなのに……どうして貴方は、命を賭した戦いに怯まないのだ?」 判り切った事を何故聞かれたのか判らない、と言いたげな顔で、ジョセフは答えた。 「そりゃアンタ、困ってる友達を見て助けないなんて薄情な真似はわしにゃ出来んというだけだ。王女殿下は、この部屋でわしを友人だと言った。わしをジョジョと呼んだ。だからわしは助けに行くだけのことだ」 単純明快にして、唯一無二の答え。 ウェールズは、静かに息を一つ吸い、そして大きく吐き。そして深々と頭を下げた。 「……そうだな、ミスタ・ジョースター。愚問だった、非礼を許して頂きたい」 「気にせんで結構。さあ行こう、調子コイとるバカどもをぶちのめしになッ」 ウェールズの肩を掌で軽く叩いてから、改めてオスマンに向き直った。 「最後まで世話になりました、センセ。わしの可愛い孫と友人達を、どうか宜しくお願いします」 ウィンク混じりの笑みの別れの挨拶に、オスマンは口髭に隠れた口の端をニヤリと吊り上げた。 「安心しなさい、例えどんな結果になったとしてもわしの生徒達の安全は保証しよう。――存分に、戦ってきなさい」 そして差し出された手を、ジョセフは力強く握った。 「その言葉があれば、安心して戦えるというもの。お世話になりました」 皺だらけの顔を、笑みで更に皺を増やし。二人の老人は笑みを交し合った。 「よし、ジョースター君。ミスタ・コルベールの所にはわしが行こう。あの飛行機械の燃料は彼が錬金したと聞いている。君は、ミス・ヴァリエールに別れの手紙を書いてやりなさい」 「何から何まで、すいませんな」 「ほっほっほ、なぁに。わしらの世界の不始末を異世界からの友人に任せなきゃならん不義理の代わりにゃなりゃせんて」 手を離し、ウェールズとオスマンは階段へ向かい、ジョセフは部屋へ戻る。 数分後、机に置かれた便箋の上には、ペーパーウェイト代わりに帽子が置かれていた。 「……さらばじゃ、ルイズ」 今は居ない主に向かい、ほんの少し寂しさを滲ませた笑顔で別れの挨拶を告げた。 ジョセフ・ジョースターはこの時を限りに、二度とこの部屋へ帰る事はなかった。 * タルブの村はジョセフ達が訪れた時の面影を完全に失っていた。 レコン・キスタの強襲の際に出撃した竜騎士隊が、村だけでは飽き足らず周囲の森や草原まで面白半分に火のブレスを吐きかけた結果だった。 村人達は辛うじて逃げた者も多いものの、命を失った者も数人いた。 美しい光景を失った草原にはレコン・キスタの大部隊が集結し、港町ラ・ロシェールを陣地として立てこもるトリステイン軍との決戦に備えていた。 その上空では、空からの攻撃に立ち向かう任務を負っている竜騎士隊が引っ切り無しに飛び回っている。歴史あるトリステインの誇りを担うのが魔法衛士隊ならば、大空に浮くアルビオンの誇りを担うのは竜騎士隊であった。 アルビオンが擁する竜騎士の数は火竜や風竜合わせて百を超える。今回の進軍では二十騎もの竜騎士が率いられていた。対するトリステインの竜騎士は、質でも量でも遠く及ばない。 元より奇襲を掛けられ混乱状態にある上、乏しい地力で散発的な攻撃しか行えなかったトリステインは、アルビオンの竜騎士を一騎たりとも討つ事が出来なかったのである。 翻って圧倒的な勝利を挙げたアルビオン竜騎士隊は、戦闘の趨勢が決まった後もタルブを蹂躙したのだった。 戦艦や竜騎士を失ったトリステインの空は、事ここに至りアルビオンが完全制圧した。 後はラ・ロシェールに立てこもるトリステイン王軍に空中からの艦砲射撃を行い、立てこもる都市を無力化してからゆっくりと勝ちの決まった決戦を仕掛けるのみであった。 敗北の可能性どころか死ぬ危険さえないと、アルビオンの兵士達は高を括っていた。反乱からここに至るまで敗北はなく、被害と言えばニューカッスル戦くらいのもの。砲撃の準備に掛かるアルビオン艦隊には、弛緩した雰囲気さえ漂う始末だった。 タルブの村上空での警戒に当たっていた竜騎士隊も、命の危険のない気楽な任務とばかりに各々好き勝手に空を飛んでいた。 そんな時、一人の竜騎士が上空からこちらに接近してくる竜を発見した。 昨日の交戦でトリステインの竜騎士隊の錬度を把握していた彼は、舌なめずりした。昨日は二機撃墜したが、どうにも物足りないスコアである。 およそ二千五百メイルの高度を飛んでいる敵を見据えながら、火竜を鳴かせて敵の接近を同僚達に知らせようと手綱を引いたその時――竜の頭が突然吹き飛び、彼の胴体は半分以上抉られていた。 (え?) 自分に何が起こったのか理解する機会も与えられない。火竜の喉には、炎の息を吐く為の燃焼性の高い油の詰まった袋が仕込まれていた。音速で飛来する弾丸で吹き飛ばされると同時に着火した油の飛沫は、人一人を燃やし尽くすには十分すぎた。 (なんだ? 何が起こったんだ? あれ、俺……) 彼の生涯最後の幸運は、事態を理解する前に意識が炎に飲み込まれたことであった。 どのような原因によってどのような結果が起こったのか、例え理由がわかったとしても受け入れ難い事実ではあったろう。 超音速で飛来する直径二十ミリほどもある鉛の弾丸が、竜の頭部を風船のように破裂させただけでは飽き足らず、その後ろに座っていた自分もついでに吹き飛ばしたなどとは。 「よし、撃墜一」 今しがた一匹と一人の命を奪った張本人は涼しい顔で嘯いた。 「……なんだ、何が起こったんだ」 今しがた焼け野原へと落ちていく竜騎士が、命の間際に思った言葉と同じ思いを口にしたのはウェールズだった。元々一人乗りのコクピットから無線機を取り外した空間に無理矢理乗り込んでいる故に狭苦しいが、お互いの行動が阻害されるほどでもない。 雲を隔てた下方に竜騎士が見えたその時、鈍い爆発音が機体を震わせたかと思うと、一条の白い光が走り、竜の頭と騎士を一緒くたに吹き飛ばしていた。 「ああ、さっき説明した銃の威力じゃよ。ああ、口径が二十ミリだから砲になるんかな」 「銃!? あれが!? まさか今の音が発射音だったのか!」 ハルケギニアには砲が存在するし、それより口径の小さい銃も存在する。しかしハルケギニアで銃と言えばマスケット銃どまりである。致命傷を与えるどころか、せいぜい手傷を与えるくらいの……治癒手段を持つメイジにとっては玩具程度の認識でしかない。 「わしらの世界じゃ有り触れたモンだ。ま、それにちょいとばかり上乗せしとるがね」 そう言うジョセフの手からはハーミットパープルが伸び、機関銃に絡み付いている。 えてして弾丸は直進しない。特に超高速と長射程が加わる場合、その弾道は直線とは大きくかけ離れた大きな弧を描く。大気や風速を始めとした空気抵抗を始めとし、重力、果ては気温すら弾道に大きな影響を及ぼすのである。 ゼロ戦を兵器と認識したガンダールヴの力は、一度も発射していない機関銃の弾道をジョセフに認識させていた。目標地点に存在する標的をどの位置から撃てば数秒後に命中するのか、未来予測の計算すら可能にした。 それに加え、ジョセフと機関銃はハーミットパープルで直結されている。 ガンダールヴが弾き出した命中の方程式を、脳から身体、身体からガントリガー、トリガーから砲身……という一つ一つのプロセス毎にかかる僅かなタイムラグを除去し、寸分違わないタイミングで実現していたのだった。 そして何より、搭載している弾薬を無駄遣いするわけにも行かない。 竜騎士隊はジョセフには肩慣らし程度の認識しかなく、本命はレコン・キスタ艦隊。20mm機銃2挺の携行弾数は各125発、7.7mm機銃2挺の携行弾数は各700発。一切の補給が許されない以上、一発たりとも無駄弾を撃つつもりはなかった。 十何隻も居並ぶ戦艦達に立ち向かうには、可能な限り万全を期さなければならない。 「さて、殿下を送り届ける前にあのトカゲどもをチャチャッと片付けてしまわんとな」 かつての母国の誉れとも言うべき竜騎士隊をトカゲどもの一言で片付けられるのにも、今は苦笑しか浮かべられないウェールズだった。 なるほど、このゼロ戦を相手にしてはアルビオン自慢の竜騎士など地を這うトカゲとなんら変わる所はない。 速度は風竜を上回り、搭載する銃は威力も射程も火竜のブレスを遥かに凌駕する。負ける道理を見つける方が難しいとさえ言えた。 「おう相棒、右下から三騎来るぜ」 デルフリンガーが普段と変わらない口振りで敵機の襲来を告げる。 「あいよ、んじゃあちょっくらエースになりに行くとするかッ!」 * ルイズは結局学院に帰る事もなく、レコン・キスタを迎え撃つ為出陣したアンリエッタの後を追って自分もまた戦場に向かっていた。 高く昇っていく太陽に二つの月が重なろうとする中、ラ・ロシェールに立てこもったトリステイン軍へ向けて進軍してくる敵の姿が見えた。三色の旗をなびかせ、徐々に近付いてくる。 既に前日の攻撃と焼け野原と化していたタルブの草原を、正に蹂躙し尽くした張本人であるレコン・キスタを目の当たりにし、ユニコーンに跨ったアンリエッタは、着慣れない甲冑の下で恐れに身を震わせた。 王女の側に控えるルイズも、ヴァリエール家三女の誇りを重石にしなければ恐ろしくて逃げ出してしまいかねなかった。 アンリエッタやルイズが生まれてから現在に至るまで、ゲルマニアやガリアとの戦争があるにはあったが、せいぜい国境付近に領土がある貴族同士の小競り合い程度だった。 国と国同士の総力を挙げた戦争は久しく行われておらず、急拵えで集めた二千の軍勢の中でこの規模の戦争経験がある将兵は過半に達していなかった。 知らず起こる震えを誤魔化そうと、アンリエッタは始祖に祈りを捧げた。 だが、それ以上の恐怖はすぐさま訪れる。 敵軍の上空には、傲然とした様さえ伺わせる大艦隊が控えていた。たった一日でトリステイン艦隊と竜騎士隊を壊滅させたアルビオン艦隊である。雲のように空に浮遊する艦の周囲を飛び回る竜騎士の姿すら見えている。 逃げ出したくなる臆病の気を辛うじて唾と一緒に飲み込んだのは、アンリエッタかルイズか、それとも兵士達だったか。これから始まる戦いに絶望しか抱けなかったトリステイン軍に、聞き慣れない物音が聞こえたのはそんな時であった。 まるで口を閉じたまま唸る音が鼻から抜けているような奇妙な音。それが断続的に聞こえてくる。すわ、アルビオンの攻撃かと身構え、空を見上げたトリステイン軍は、更に奇妙なモノを目撃した。 それは空を飛んでいた。フネのように浮いているのではなく、飛んでいた。 竜のようにも見えたが、胴体から生えた二枚の翼をはためかせることもなく、ただまっすぐに広げられている。 その奇妙な竜に向かっていくアルビオンの竜騎士達は、竜の翼や頭から発せられる白い光に貫かれた。ある竜は空中で爆発を起こし散華し、またある竜は減速することもなく地面へ向かって墜落していった。 昨日の戦いを辛くも生き残った兵達は、自分の正気を疑った。 トリステインの竜騎士達に圧勝した竜騎士隊が、たった一騎の竜に立ち向かうことも出来ず、ただ止まっている標的であるかのように撃ち抜かれて行く。 奇妙な竜は天高く空へ向かって上昇したかと思えば、すぐさま急降下して竜騎士の背後を取る。背後を取られた竜騎士は間髪置かず白い光の洗礼を浴び、空から脱落する。 トリステイン軍の中で、あの奇妙な竜が何であるかを知る人間は、一人しかいなかった。 ルイズである。 つい一週間前、タルブの村に置いてあった飛行機。 とても空を飛ぶとは思えなかった代物が、今、現実に空を飛んでいるばかりか、天下無双と謳われるアルビオンの竜騎士隊を歯牙にもかけていない。 「……ジョセフ、ジョセフ、なの?」 あの飛行機を操れるのは、この世界には一人しかいない。 だがルイズの中に、この絶望的な戦況を覆せるかもしれない手段を引っ下げて来た使い魔を誇る気も、主人のピンチに駆け付けて来た忠義を喜ぶ気も、一切なかった。 「……あの、バカ犬ッ!」 思わず漏れた声に、空を呆然と見上げていたアンリエッタが思わずルイズを見た。 「どうかしたの、ルイズ」 アンリエッタが掛けた声で、自分の中で膨らむ感情が思わず口に出ていたのが判ったルイズは、慌てて首を横に振った。 「い、いえ、なんでもありません、王女殿下」 そしてまた、二人の少女は空を見上げた。 アンリエッタは、謎の竜が繰り広げる空中戦に目を見開き。ルイズは、コクピットの中にいるだろう使い魔への心配に満ちた目を眇めた。 (……ジョセフのことだもの。きっと、戦争やってるって聞いて……居ても立ってもいられず飛行機に乗って来たんだわ) 使い魔として召喚してからそれほど長い時間を過ごした訳でもないが、使い魔の気性は十分に理解していた。普段は怠け者でお調子者だが、戦うべき場面に恐れず歩み出すのがジョセフ・ジョースターなのだと。 (……でもジョセフ、アンタ……今、そんな事してる場合じゃないでしょう!? ちょっと我慢してたら元の世界に帰れるんじゃない! どうして来なくてもいい戦争なんかやってるのよ、なんで、どうして……!) 使い魔を元の世界に帰す決意をしたのに、当の使い魔は必要のない戦いに首を突っ込んできている。こんな事なら、いっそ別れの時まで一緒にいればよかったかもしれない。 自分の言葉で使い魔が自分の意志を曲げるとは毛ほども思っていないが、それでも、戦いに行くなと言えたかもしれない。しかし今、使い魔はたった一人レコン・キスタと戦っている。 メイジでも貴族でもない、異世界の奇妙な老人が戦っていると知っているのは、ルイズただ一人。今、あの奇妙な竜を操っているのは自分の使い魔なのです、と言う気にはなれない。言った所でアンリエッタすら信じてくれないだろう。 だが、事実である。 ルイズは飛行機から視線を背けないまま、胸の前で両手を組んだ。 (――始祖ブリミル。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール一生のお願いです。どうか、どうか……ジョセフ・ジョースターをお守り下さい。彼を無事に家族の元へ帰して下さい……) 切なる祈りを捧げるルイズをよそに、ただ空を見上げていたトリステインの軍勢の中から、誰とも知れず声が聞こえてきた。 「……奇跡だ……」 「いや、あれこそ、始祖ブリミルが我々に大いなる力を振るって下さっているのだ……」 都合のいい言葉だが、それを否定する言葉を誰も持っておらず、ましてや絶望に垂らされた一筋の希望を否定する気などあるはずもない。 ルイズと同じくアンリエッタの側に控えていたマザリーニは、兵士達から上がる希望に縋る声にただ追従したりはしない。感情の揺らがない目で竜が空を舞う様を見つめていた。 熱狂に侵食されつつある二千の中で一人、どこまでも静かに戦況を見ていたのはマザリーニ枢機卿だけであった。鳥の骨と貶められいらぬ誤解を受けながらも、前王の崩御以来トリステイン王国を担ったのは紛れもなく彼なのだから。 この戦いに勝算など欠片ほどもなく、ただ名誉を拾いに行くために死にに来たようなものだと考えていた彼は、かの奇妙な竜を目の当たりにしてもトリステインの勝利を描いていない。 (我々が勝てるとすれば、かの艦隊を空から引き摺り落とさなければならない。果たしてあの竜は、ただ一騎で艦隊と立ち向かえるのか?) この場に居る誰一人として、竜騎士を七面鳥の如くあしらう竜の能力全てを知らない。 絶望的な状況の中、一筋の希望を見せている。だが、縋るにしてはその希望はか細い。 もしこの希望さえ潰えたのなら、その時こそトリステイン軍はラ・ロシェールと共に壊滅するしかない。しかし、もしこの希望が縋るに相応しい代物であったのならば、二千の兵を奮い立たせる何よりの要因となる。 (……内から沸き上る衝動すら口に出せないとは。全く難儀な道を選んだものだ) 手綱が湿るほど汗をかいていた掌を裾で拭う様など、アンリエッタですら見ていない。 ――やがて、時間にしておよそ十分強。アルビオン艦隊の周囲を飛行していた竜騎士隊二十騎全てが全滅する。 竜騎士が一騎撃墜される度に大音声の歓声を上げていたトリステイン軍は、今しがた竜騎士隊を全滅させた竜がラ・ロシェールに向かって飛んでくるのを見ていた。 竜が近付いてくればくるほど、唸り声のような音は大きく響いて聞こえてくる。 つい先程までアルビオンの竜騎士隊と戦っていた竜が何故こちらに近付いてくるのか、理由を計りかねるトリステイン軍は一様に竜を見上げる以外に対処の仕様がなかった。 接近するにつれて少しずつ高度を落としていた竜は、自分を見上げている四千の眼の上を誰も見たことのない猛スピードで通り過ぎたかと思うと、街に聳える巨大な樹を回り込む軌道で戻ってきた。 竜は再び艦隊へ向かう進路を取りつつ、トリステイン軍の頭上を悠々と渡っていく。 そして竜がアンリエッタ達の頭上を飛び越えていったその時、竜から何者が飛び出した。 反射的に銃や杖が向けられるが、しかし今の今まで竜騎士隊と交戦していた竜から現れた人影へ問答無用に攻撃を仕掛ける者は居ない。 トリステイン軍の前方、アンリエッタの付近へ向けて落ちてくる最中にフライの魔法を唱えた影は、マントを風にはためかせながら声も限りに叫びを上げた。 「アンリエッタ!」 風に乗せられて届いた声に、アンリエッタの目がこれ以上はないほど開かれた。 「ウェールズ様!? ウェールズ様なのですか!?」 王女の口が紡いだ名は、呼ばれるはずのない名前だった。 トリステインの王女が様を付けて呼ぶ「ウェールズ」はレコン・キスタとの戦いで華々しい戦死を遂げ、既にこの世の者ではないと言う事になっているからだ。 返事をする間も惜しいとばかりに、ウェールズは一直線にアンリエッタの側へと降り立った。 突然の事に周囲のメイジ達が一斉に杖を向けるが、マザリーニは彼をアルビオン王国皇太子であるとすぐさま判別をつけた。 「各々方待たれよ! この方はアルビオン王国が皇太子、ウェールズ・テューダー様なるぞ! 今すぐその杖を下ろされい!」 その声に杖は幾許かの躊躇いの後で下ろされるが、アンリエッタとウェールズは杖の行方など最初から一瞥もくれていなかった。 アンリエッタはこれまで辛うじて続けてきた王女としての振る舞いを今ばかりは完全に忘れ、ただの恋する少女に戻ってしまっていた。 「ああ、ウェールズ様! この様な時に来て下さるだなんて……!」 それでも人目も憚らず抱擁を求めてしまうほど自分を見失ってはいなかったが、右手までは気持ちを抑えることも出来ず、ウェールズを求めるように伸ばされていた。 ウェールズは恋人に向けて差し出された手を、王子としての手で取ると、自然な動作で甲に唇を落とした。 「話は後だ、アンリエッタ・ド・トリステイン。僕はアルビオン王国の生き残りとしてトリステインへの援軍に来ているんだ。もうすぐ艦隊からの砲撃が始まる、すぐに部隊を集めて――」 ウェールズの言葉が終わるのを待つこともなく、竜騎士隊を全滅させられた艦隊は多少の被害に構わず、当初の予定通りラ・ロシェールへの艦砲射撃を開始した。 何百発もの砲弾が空から轟音を伴って降り注ぎ、岩や馬は言うに及ばず、兵士達を吹き飛ばす。これまで目の当たりにした奇跡で高揚した士気を持ってしても、兵達の動揺を留めることはできなかった。 「きゃあ!」 思わず目を固く閉じて身を竦めたアンリエッタを庇うように立ったウェールズは杖を一振りし、風の障壁を周囲に張り巡らせる。 「マザリーニ枢機卿!」 「承知しております!」 王女から少女に戻ったアンリエッタをウェールズに任せ、マザリーニは素早く周囲の将軍達と即席の軍議を終えた。マザリーニの号令に合わせ、メイジ達は一斉に杖を掲げて岩山の隙間を塞ぐ形で風の障壁が張り巡らされる。 砲弾は障壁に阻まれてあらぬ方向へ飛ばされるか空中で砕け散ったが、それでも全てを防げる訳ではない。障壁の隙間を潜り抜けて砲弾が着弾する度に土煙と血飛沫が撒き散らされた。 「この砲撃が終わり次第、敵の突撃が開始されるでしょう。それに立ち向かう準備を整えねばなりませぬ」 「勝ち目は……あるのですか?」 怯えを隠せなくなってきたアンリエッタの声に、マザリーニは心の中で首を振った。 勇気を振り絞って出撃したものの、彼我の戦力差は比するまでもない。砲撃は兵の命だけでなく人の勇気を打ち砕き続けている。 しかし、今でこそただの少女に戻ってはいるが、昨日の会議室で威厳ある王女としての振る舞いを見せてくれたアンリエッタに現実を突きつける気にはなれなかった。 五分五分だ、と精一杯のおためごかしを言おうとしたその時、ウェールズの静かな声がアンリエッタに投げられた。 「――ある。十分だ」 ウェールズはアンリエッタではなく、艦隊を遠巻きに旋回しているゼロ戦を見上げながら呟いていた。 「砲撃が終われば、その時が反撃開始の時間だ。それまで、持ち堪える」 着弾の度に揺るぐ地面の感触を感じつつ、愛する少女を守る為に青年は杖を掲げた。 * 竜騎士隊を全滅させた後、ジョセフは本来の目的であるウェールズの送迎を済ませた。 ラ・ロシェールに進行する艦隊をゼロ戦一機で殲滅できるとは思っていない。竜騎士の七面鳥撃ちは出来るにしても、爆弾の一つも搭載していない戦闘機が戦艦に立ち向かおうとするのは無謀としか言い様がない。 「救いは二十ミリを結構温存出来たっつーことだが……それにしたってハンデデカいぞ」 二千メイルの上空を維持したまま、艦隊の射程外を遠巻きに旋回する。闇雲に攻められるのは竜騎士に対してのように、圧倒的な戦力差があってこそである。 今はジョセフが圧倒的に攻められる番のはずだが、艦隊はこちらにさして構う様子すら見せずトリステイン軍に艦砲射撃を開始していた。何門かの砲門がこちらに向いているが、あくまで無闇な接近を阻む威嚇射撃らしき散発的な砲撃である。 それだけ戦力差が絶望的に開いている、という証左であった。 「相棒、それはいいんだがガソリンは足りるのかね。日蝕までもうすぐだが、今のでかなり吹かしたんじゃねえのか? 俺っち怒んないから正直に言ってみな」 「しょーじき、厳しい」 燃料を満載にしていれば三千kmは優に飛行できるゼロ戦だが、日蝕に飛び込むまでどれだけ上昇するのかはコルベールすら把握していない。無事に元の世界へ帰還できたとしても、どこに出るか判らない以上、ある程度は燃料に余裕を持たせねばならなかった。 「あいつらの弱点は見えとる。空の上から攻め込む戦艦は、砲を真上に向けるようには作っちゃおらん。撃てたとしても自分で撃った砲弾を頭に食らう覚悟はないだろうがなッ」 一番手堅いのは、敵艦の頭上を取って急降下掃射を浴びせ反転急上昇、再び急降下掃射、という手を取る事であるが、そんな機動を繰り返せば燃料も弾薬もすぐ尽きる。 しかしジョセフは躊躇わない。 「ここで引いたら男がすたるッてな!」 口の端をにやりと吊り上げ、機体を急上昇させていく。 雲を突き抜けた先で双月に隠れようとしている太陽を横目で見た後、そのまま間髪入れず宙返りして艦隊へと急降下していく。 「行くぞッ!!」 艦隊の中央に陣取る、周囲の戦艦と比べても一際大きなレキシントン号。 遥か眼下、照準器に刻まれた十字にレキシントン号を捕らえると、ハーミットパープルではなくガントリガーを力の限り引いて両翼の機関砲に火を噴かせる。 「これでも食らえッッ!!」 出し惜しみすることをやめた二十ミリ砲弾と七.七ミリ銃弾が空を引き裂き、レキシントン号へと吸い込まれていく。 元からの火力に急降下の速度と重力、そしてガンダールヴの能力の助けを受けた砲弾は一発一発が必殺の威力を手に入れている。直撃を受けたレキシントン号のメインマストは中程から折れ下がり、甲板を貫いた弾丸は直撃を受けた不幸な水兵を物言わぬミンチに変えた。 だが、そこまでだった。 「……チッ、ビクともしとらんな」 アルビオン艦隊の射程から逃れるべく四千メイルの上空で再び急上昇を掛けながら、なおもふてぶてしく空に聳えるレキシントン号を睨み付けて舌打ちをする。 渾身の斉射は少なからずの被害を与えていたが、レキシントン号ほどの巨艦を大破轟沈させるにはどうしようもないくらいに役者不足だった。 60キロでなくとも30キロ爆弾があれば、木造のフネなどあっと言う間に炎上させられていただろうし、一機だけでなく複数の僚機がいれば多大な被害を与えられていたはずだ。 しかし今、ハルケギニアの空を飛ぶ戦闘機はジョセフのゼロ戦一機だけだった。 二十騎もの竜騎士を容易く屠れはしても、巨大戦艦群を相手取れる性能はない。 「弾切れになるまではブチ込んでやらにゃあなるまい……これ以上好き勝手させてたまるかッ!」 ジョセフ本人もこれ以上は徒労になるとは理解している。 しかしジョセフの気性に加え、「敵の手の届かない所から撃てる」というある意味気楽な立場は、もう一度攻撃を行う踏ん切りをつけるには十分だった。 「撃ち尽くしたら逃げるッ!」 力強い宣言をした後、二度目の宙返りからの急降下斉射にかかる。 再び機首と両翼から撃ち続けられる弾丸がレキシントン号とは別の艦船に叩き込まれる。 しかし結果はレキシントン号と似たり寄ったりの結果でしかなかった。 メインマストを破壊し、ひとまずの被害を与えたもののせいぜいが小破止まり。 「相棒、これ以上は無理だ。逃げな」 戦況を冷静に把握しているデルフリンガーが呟く言葉に、ジョセフはまた舌打ちして操縦桿を握り直す。 「チ、これが限界じゃな。ところでお前はどうするんじゃ」 「ここから放り投げるなり連れてくなり好きにしてくれよ。でも六千年も見てきた世界より、相棒の来た世界とやらを見てみたい気もするな。良かったら連れてってくれるかい」 「了解了解、じゃあ行くとするか……」 そう言いながらペダルを踏み込み、スロットルレバーを動かす。 「……む?」 「どうしたよ相棒」 デルフリンガーに返事する前に、再びハーミットパープルを這わせる。 茨から伝わってきた情報に、ジョセフの全身から汗が噴き出した。 「……まずいな、エンジンが焼け付いてきとる」 「なんだって? 今の今まで普通に飛んでたじゃねーか」 「この前試験飛行しただろ。本当は一回飛ぶ度にエンジンバラして全部の部品を調整せにゃならんのだが、そんな時間もないし大丈夫だろうと思ってたんだが……固定化の魔法ってそんなに信用できんかったんじゃなあ」 「じゃなあ、じゃねえよ! 固定化は物の劣化を防ぐだけで損傷まではカバーしねえんだよ!」 「だったら最初から言ってくれよ! つい調子乗って試験飛行やっちゃったじゃないか!」 「うるせえ! いい年して調子こくから本番で困るんだろが!」 不毛な言い争いをしながら、ひとまず滑空状態のまま空域から離れる。 現状、まだ飛行は維持できるが急上昇急降下急旋回などの機動をすれば、場合によっては更なるエンジントラブルを引き起こし、最悪の場合は空中でエンジンが破壊される可能性も有り得るという見立てだった。 「ふぅーむ。こいつぁ参ったな……掻い摘んで言うと、帰れんくなったっつーこった」 「気楽に言ってんじゃねえよ! しゃあねえ、じゃあどっかに着陸して……」 「いや、このままあいつらをほったらかすとろくなことにゃならん」 「おいおい、もう何も出来ないだろ。これ以上何かするってったら……」 そこまで言って、デルフリンガーはある可能性に行き当たった。 まさかとは思ったが、そんな常識が通用しないのが今の相棒である。 「このゼロ戦のパイロットには伝統的な戦法があってな」 「おい。ちょっと待て。もしかして、この飛行機をあのデカブツにぶつけようとか、そんな無謀なことを考えてるわけじゃないよな?」 「よくわかったな」 「……無茶苦茶だ、幾ら何でもそりゃねえよ」 六千年、使い手含めて様々な人間に握られてきたが、こんな無謀な手を考え付き、あまつさえ実行に移そうとする人間は見たことがなかった。 「なぁに、わしは手近なフネに飛び移ってハイジャックするつもりじゃ。死にはせん」 「おい、考え直そうぜ。それはあんまりにもあんまりだ」 言葉だけ見ればジョセフの翻意を促しているが、その言葉の響きはいかにも楽しげであった。 「まぁ、相棒がどーしてもって言うなら付き合ってやらんでもないがな!」 「よし来た! んじゃちょっくら行くとするかッ!」 艦隊の射程外を飛んでいたゼロ戦を上昇させ始め―― 『待ちなさい! そんな勝手なこと、主人の許しもなしにやらせないわ!』 不意に聞こえたルイズの声に、思わず上昇を抑えた。 「ルイズ!? ルイズなのかッ!?」 To Be Contined → 戻る
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1047.html
前回の内容:中の人が爆発して色々グダグダになった。あと、マリコヌル瀕死 「……オメーらいい加減帰れ」 少々精神的ダメージを負ったが、今日の仕事はまだ終わっていないので続けているのだが… 「あら、まだ宵の口よ?」 「………(ガオン!)」 「主人に内緒でこんな事してたんだから、この代金あんたが払いなさいよ」 プロシュートに酌をさせているキュルケ。料理をひたすら食べているタバサ。何気にゴチ宣言をするルイズがまだ居座っていた。 「あらぁ~~今日はプロシュートちゃんの退職祝いだからタダでいいわよぉ~~~」 『ミ・マドモアゼル』が妙にクネクネしながらズィィィっとプロシュートに擦り寄るが、さっきあんな事されただけに頭押さえながら立ち上がった。 「……飲む?」 タバサが例の水筒から注がれた物が入ったグラスを差し出す。 「……ああ」 いい加減、頭とか胃とか痛くなってきたので水分補給しとこうと思いそれを取り水を飲むように一気に口に入れた瞬間…動きが止まった。 タバサはその様子をジーっと見ているがプロシュートが3/4ぐらい減ったグラスから口を離し、何時もの冷静な顔でグラスを返すと店の奥の方に消えていった。 「…タバサ、それなに?」 「はしばみ茶の試作品」 あれで茶だったのかと二人が同時に突っ込むが、意外に反応の薄かったプロシュートを見て少し味が気になった。 「味見したの…?」 無言で首を横に振るタバサを見て、ヤバイ物と判断し少しだけ飲んでみようかという選択肢を瞬時に外した。 店の奥から裏口に出たプロシュートだが出た瞬間、顔から嫌な汗を思いっきり流し咳き込んでいる。 「ガッ…!ガハッ…!ゴバッ!!…ハァー…ハァー…こんなキツイのは…リゾットが…作った飯を…食った時…以来だな……」 肩で息しながら回想に入るが、あの時もこんな状態になった。 リゾットの料理の腕や味覚が壊滅的に悪いというわけではない。むしろ巧い方だったのだが… 無意識的にメタリカが働いたらしくアルミホイルや金属を奥歯で噛んだような感触や味がしてえらい目にあった。 「オカマに迫られるわ…妙なモン飲まされるわ…厄日か?クソ…ッ」 「ふふ…大丈夫ですか?水お持ちしました」 笑いながらシエスタが水を持ってきてそれを飲み干す 「そんなに酷い味だったんですか?」 「ありゃ毒の領域だな…拷問用具として売り出せれば一財産稼げる」 「…よく吐き出しませんでしたね」 「…まだここで働いてるからな」 従業員が店で吐けば確実に今後の売り上げとかが落ちる。表の仕事と暗殺稼業で鍛えたプロ根性で耐えたが限界ギリギリだった。 「……大分マシになった。助かったぜ」 「水をお持ちしただけですので…そういえば、ずいぶんと手馴れた感じの様子だったみたいですけど、ここに来る前は何をしてらしたんですか?」 さすがに、この悪意の無いストレートな問いには戸惑った。 「…まぁ上の連中の後始末をな」 「…すいません」 若干言いにくそうに言うので何か聞いてはいけない事を聞いてしまったのかと思ったのか頭を下げる。 「オメーは、一々人に頭下げすぎなんだよ」 「す、すいません…!」 ペッシでもここまでやらねーと思うと、何か新しい生物を発見した気分になる。今の今までこんなのにはお目にかかったことが無いのだ。 「ったく……そこまで頭下げられると説教する気にもなれねぇ」 「すいまひゃあ!」 三回目の前にバスっと後頭部を一発叩かれる。 「…痛いですよぉ」 「一回言うごとに強くなるからな」 「さて…いい加減あいつら帰さねーとな…明日もあんだろうからあいつらと一緒に先に戻って構わねーぞ」 「明日…ですか…」 はふぅ…と溜息つき、語気が弱くなる。 「なんかあんのか?」 「いえ…」 何も無いならと扉に手を掛けるが後ろから声がかかった。 「その…プロシュートさんさえよければ…最後に頂きたいものが…ある…んですが」 「まぁ世話になったからな…くれてやれる範囲のものでなら構わねーが」 「首から下げられている…それを頂けると…」 イニシャルでもあるPの形を模した勾玉にも見えるものを指差す。 半分奇跡的な状態で糸が繋がっていて今にも取れそうなものだ。 「まぁ…こんなもんでいいなら構わねーが」 プチッっと糸を千切りそれを手渡す。 「あ、ありがとうございます!これがあれば…明日から頑張っていけそうな気がするんです」 「他になんもないんなら行くぞ」 扉の向こうにプロシュートが消え扉が閉まると笑顔から一点、目を伏せ小さく呟いた 「これが…あれば…あそこでも…頑張れますから…」 そして、席に戻ると三人がすっかり出来上がっていた。 「遅いわよぉ~~~なにやってたのぉ~~~」 「………(ガオン!)」 「ふぉら!こっひきらはいよぉ」 「マジで帰れ」 閉店時間になりハンカチを噛んで泣きながら見送る『ミ・マドモアゼル』を後にプロシュート以外の四人がシルフィードに乗り込む。 「ほりみちひはいれはえっへふんのよぉ~(寄り道しないで帰ってくんのよぉ~)」 「もう一軒行くわよぉ~~」 「学院…ケプ……zz…ケプ…zzz」 「………酔っ払いが二人と食い倒れが一人か…悪いがこいつら頼む」 「分かりました…気をつけてくださいね…」 「まぁ基礎トレーニングと思えば…な」 往復計6時間の乗馬はかなりキツイ。だが基礎体力の向上は望める。 偏在のようにグレイトフル・デッドの能力が通じない敵が存在する以上、本体のパワーアップは少しでもしておいた方が良い。 シルフィードが飛び立つ事を確認すると馬を進めるが上空が水滴が2~3滴落ちてくる。 「……ヤバイな…雨か?」 上を見上げるが有るのは二つの月と雲ひとつ無い星空とシルフィードだけだった。 「…妙だな」 まさかとは思うがシルフィードがやったのか…?と当人(当竜)にとってはかなり失礼な思考をする。 明け方帰ってきて久しぶりにルイズの部屋に入る事を「許可するッ!」をされていたのだが酔っ払っていて鍵が開かなかったので例によって使用人部屋で寝る事にした。 「帰ってきてねぇはずはないが…」 とっくにルイズは帰ってきているというのにシエスタが居ないはずはないと思ったがぶっちゃけ疲れていたため、まぁ気にはなったが寝る事にした。 「…デルフ馬に付けたままだったが…起きてからで…問題…ねぇな…」 ~翌日~ 「…ッかぁ~」 珍しく欠伸しつつ首を鳴らしながらルイズを叩き起こし、食堂へ向かう。 「…ねぇ昨日途中から記憶が無いんだけど何で?」 「あんだけ飲みゃあな…つーか記憶無くす程飲んでなんでオメーは二日酔いの片鱗すらねーんだ」 食堂でルイズと別れコーヒーでも貰うかと厨房に向かうが、妙に雰囲気が重かった。 「わりーが目が覚める何かくれ…」 「おう…ちょっと待ってくれ…」 「…らしくねーな、なんかあったのか?」 マルトーですら沈んでいる。さすがにあの親父がこうも沈んでいる事に気付く。 沈黙が数秒を続いた後、マルトーが頭下げてきた。 「すまねぇ……!シエスタはおまえさんが心配するから言わないで欲しいって言われてたんだが… 三日前にモット伯って貴族が来てシエスタを気に入ったらしく…今朝の明け方連れていっちまったんだ…!」 「…そのモット伯ってのはどういうヤツなんだ?」 「なんでも平民の女を集め手篭めにしてるってぇ話だ…」 「…チッ!」 思わず舌打ちが出る。 三日前なら少し様子が妙だと思い始っていたのだが特に気にしてはいなかった。この時ばかりはリゾットのあの洞察力の高さを羨んだ。 (あれに気付けねぇたぁ…少しここの空気に慣れすぎたな…!) 無言で立ち上がるがマルトーが口を開いた。 「あいつは…おまえさんが知れば、モット伯の所に行くと思ってるから黙っててくれって言ったんだ…」 「オレが居たとこではな、あんな目をしたヤツなんてのは居ねーんだ…殆どのヤツが最初から目が濁ってやがる…! それでも、少しは居た…!だが、同じようにして連れていかれ結局濁った目になんだよ…!分かるか…?オレの言ってる事…」 自分が捨てたはずの過去を思い出す。 親が酒代やヤクの金を得るためだけに何も知らない娘を売り飛ばした連中を何人も見てきた。 プロシュートもどっちかというと貧民層の出だったので幼馴染の娘がそういう風に連れて行かれ、1年ぐらいしてその娘と再会した事がある。 精神的にかなりヤバかったので何とかして病院に入れたのだが、昔見たような目はもうしていなかった。 それでも、何とか話せる範囲まで回復させたのだが、それからしばらくして病院に行くと手首を斬って自殺していた・・・ その時から、このクソみたいな場所を捨て『栄光』を求めるため『パッショーネ』に入団した。 「…どうやって連れて行ったんだ?無理矢理引きずっていったわけでもねぇだろ」 「どうするかは本人が決めていいと言ってたが…選択肢なんてありゃあしねぇようなもんだった! 『断れば家族がどうなるか』とか抜かしやがって…!そんな事言われりゃあシエスタが断れるはずねぇよ!」 (組織と同じじゃねぇか…ッ!気に入らねぇ…) 二年前を思い出す。『従わざるものには死を』。それに反発し反逆したプロシュートが気に入らないのも当然だ。 「シエスタには世話になったし恩もある…そのモット伯ってヤツも気に入らねぇ…オレが動く理由はそれだけで十分だ」 それだけ言うと厨房を後にし、外の椅子に座り机に脚を乗せどうやるかと思考を張り巡らす。 1.シエスタを引っ張ってでも連れ戻す。 「ダメだな…『断れば家族がどうなるか』と言われている以上、あいつの性格じゃ付いてこねぇな」 2.モット伯を殺す 「…こいつも…無理がある。老化を使えばいけるだろうが…結構知ってるヤツが居るみたいだから調べられればバレる… デルフ使えば魔法は吸い込めるから老化無しでやってもいいが…屋敷に乗り込んで刃物で斬り付けて証拠が残らない方が無いな」 3.脅迫 「…ダメか。ネタがありゃあいけるが…手ぇ付けるとしたら今夜ってところだろうから捜す時間がねぇ 老化させて死ぬ寸前まで追い込んでもいいが…姑息な手ぇ使うヤツが後から何もしねぇって事はないだろうしな…」 シエスタが連れて行かれる前だけなら、打つ手はいくらでもあっただろうが、人質に取られたような今となっては上に挙げた案は全て使い物にならない。 「殲滅には向くがこういうのにはトコトン向かねぇ能力だな…」 「あいつらならどうする…?」 (纏めてブチ割りゃあいいだろうがよォォォォオオ) 「死ね」 (しょお~~~がねぇ~~~なァ~~~。リトル・フィートで小さくさせ飛び降り自殺にでも見せかけりゃあ済むだろうがよぉ~) 「…オレの能力じゃ自殺に見せかけんのは無理だな」 (兄貴ィ…その…兄貴が殺らなくてもいいんじゃあないですかい?) 「この腑抜け野朗がッ!」 (行方不明にでもさせればいい。マン・イン・ザ・ミラーなら楽なもんだ) 「老化が使えねぇ…そうなると埋めるかどうにかして処理しなくちゃあならないが…足が付く可能性があんな」 (ディ・モールト!ディ・モールト良いぞッ!メイドなんてアキハバラでしか見れないじゃあないかッ!) 「ちったぁ自重しやがれ」 (そうだな…殺ったという証拠さえ残さなければいい…) 「証拠を残さず殺るか…問題は殺っただけじゃあダメだって事だな…モット伯とその周辺関係をブチ壊すような殺り方でないとな…」 2~3使い物にならなかったが、他のヤツならどうするかと脳内で考え出た答えに一々突っ込む。 「つまり、シエスタとその家族にも影響が無く、モット伯とその周辺も巻き込んだハデな殺り方で証拠も残さないようにしろ…って事か…」 (『任務は遂行する』『部下も守る』『両方』やらなくちゃあならないのが『幹部』の辛いところだな) 「ブチャラティのヤツ…えらく簡単に言ってくれたじゃあねぇかよ」 「机に脚乗せてなにブツブツ言ってるのよ」 「…オメー、モット伯ってヤツの事なんか知らねーか」 「モット伯…?会った事は無いけど…いい話は聞かないわ。平民の少女を集めて その連れて行かれた娘たちは誰も戻らないって聞いた事がある。宮廷とも繋がってるから野放しになってるらしいんだけど」 (戻ってこないだと…?ってこたぁ飽きられたか用済みになったヤツは始末されてる可能性があるな…) 「それで、モット伯がどうしたのよ」 「気にすんな」 (なまじ貴族で顔が知られてるだけに連れて行くと証拠が残る…単独で殺るのが確実か) 決めるや否やその行動は速い。机から脚を降ろし立ち上がる。 「…あいつの気にすんなは絶対なんかあんのよね」 厨房に戻り、必要な物を手配してくれるように頼む。 すぐ揃えられるものばかりなのでそう時間は掛からないが、暗くなる前に少しは偵察ぐらいしておかねばならない。 「暗くなる前に偵察を済まし…暗くなれば即突入か…強行軍だな」 馬を走らせ街道を進んでいくとデルフリンガーが口を開いてきた。 「兄貴、勝算はあるのか?」 「殺るだけならまぁ九割九部だが…そこに『証拠を残さず』かつ『ハデに殺す』だと…4割ってとこか」 「低いな…大丈夫なのか?」 「やらなけりゃあ『ゼロ』だからな」 「嬢ちゃんが聞いたら怒るぜ兄貴」 軽口をたたきながら森の入り口に馬を隠すようにして繋ぎ、木に登り邸内の様子を探る。 「門前に一組、犬持ちが3…ツーペアが2組か…巡回は庭がのみに限られてるみてーだが…どうやって館の中に入るかだな」 「老化させちまえばいいんじゃね?」 「そいつは無理だ。皆殺しにでもしねー限り、解除すれば老化したっつー事が知れる。オレだけならまぁ、それでもいいが…ルイズまで巻き込むと厄介だ」 そう言った後、思わず自嘲的な笑みが浮かぶ (ハハ…列車で乗客ごと巻き込んだオレが言えた台詞じゃあねーな) 「?どうした兄貴」 「なんでもねぇ…連中、モット伯に忠誠とか誓ってると思うか?」 「王室とかの直属部隊ならそうだろうけど、貴族の私兵とかは大体、金繋がりじゃね?」 「…ならやれなくもないな」 日が落ち辺りが闇に包まれる。 もっとも日が落ちようが巡回の数は変わらず門には依然として衛兵が二人立っているのだが。 「突っ立ってるってだけってのも暇でしょうがねぇな…」 「ああ…それなのにあの親父は今日新しく入ってきた女とお楽しみってわけだ…どっかに儲け話でも落ちてねーか」 「金がありゃあ俺達だってなぁ…だが、飽きたらあの部屋に放り込むのはな…悲鳴が聞こえる度に吐き気がすんぜ…」 「言うな…悲しくなる。まぁ立ってるだけで金が貰えるんだからよしとしようや……む…!おい!誰か来るぞ!!」 「一人か…?そこのやつ!止まれ!!」 全身を黒いローブで包んだ人影がゆっくりと近付いてくる。ローブで顔を覆っているため、その顔が見えないためそれが余計衛兵の不安を煽った。 「と、止まれ!!」 だが近付いてくるにつれ、それが妙な事に気付く。 左腕から多量の血を流し右手で左肩を押さえよろめくように近付いている。 「た…助けてェェ~~~~目もかすんでよ…よく見えない~~~ッ」 もちろん、その程度で武器を降ろすほどマヌケな衛兵ではない。 「その顔のローブを外して顔を見せろ!!」 「街道を歩いてたら襲われちまってよォォ~~~~~匿って欲しいんだよォォォ~~~」 そう言いながら顔のローブを外すが、それを見た衛兵達が警戒レベルを落とした。 「な、なんでぇ…ジジイじゃあねぇか」 「ここはモット伯の館だ!貴様のような老いぼれが近付いていい場所ではない!」 もう、くたばり損ないのジジイと判断して武器を降ろし追い払おうとするが、次の男の言葉に前言撤回する事になる。 「助けて欲しいんだよおオオ…礼はいくら…でもするからよォオオ~~~」 血を流す腕からこの男が差し出してきたのは、金貨が詰まった袋だ。 「うおぉぉ!エニュー金貨じゃねーか!」 「マジでか!?」 さっきまで儲け話はないものかと話し込んでいた衛兵達にとってはまさに天佑ともいえ、目が金貨に釘付けになる。 「まだ…金貨は別の場所にあるんだぁぁぁあああ助けてくれたらよぉぉ~~……全部やるからよぉぉぉぉ」 「おい…どうする?」 「この量の金貨だぜ?助けたってバチはあたんねーだろーが。まだ持ってるみてーだしな… それにくたばり損ないのジジイだぜ?万が一何か狙ってきたとしても何ができるってんだ」 「モット伯はどうするんだ?」 「放っときゃあいいだろーがよ!あのドケチなエロ親父が払う給金と、この袋に詰まった金貨どっち取るよお前」 「そう…だな!やっぱそうだよなぁぁぁぁアアア!どーせそろそろよろしくやってんだし知らせるこたぁねぇよなぁーーーーッ!」 (兄貴も結構演技派だよなぁ…) 半分引きずられるようにして、自分自身を老化させたプロシュートが館の中に運ばれていく。 途中それを見た他の衛兵が見咎めるが、金貨を見せられると同じようにそれを黙認する。 「薬持って来る前に、袋を渡してもらおうか…?」 「あ…?あぁ~~~いくらでもくれてやるからァァァアア…早く助けてくれよォォォオオオ」 「この色、この音!やっぱたまんねぇよなぁぁぁ~~~」 「お、おい!俺にも見せろ!」 部屋の中に通され衛兵の一人に金貨の詰まった袋を渡すと、片方の衛兵が薬を取りにいく。 そこに、金貨の数を数え気を取られている衛兵の延髄に強烈な一発が入った 「ギャパ……!」 「…たく…ジジイのフリすんのも楽じゃねーんだぞ」 「こいつどうする?」 「始末してもいいが…血痕が残ると逆に厄介だな。縛ってしばらく寝てもらうしかねーな」 縛りながら衛兵の鎧を脱がしそれを着込みその上から全身を隠すようにローブを着る。もちろん行動に支障が出ない程度に老化はしているが。 部屋の外に出て誰も居ない事を確認すると 「さて…ハデにおっぱじめんぜ…!」 そう言いながらローブの内側に括り付けられたビンを数本取り出しビンの口に入れられた油紙に館に備え付けられたランプの火を灯し ドシュゥゥゥウウ! というような勢いで廊下の向こう側に思いっきり投げつけた。 早い話。火炎瓶である。だが、油と水が7 3で混じっており水が燃えた油を弾き炎が広がっていく。良い子は真似しないように。 そうこうしていると、外の衛兵が中に駆け込んでくる。 「て、敵襲!敵襲だ!!」 ローブをすっぽりと被った男が杖を構え廊下の曲がり角を曲がる。それを衛兵達が追うが廊下の先からも火の手が上がった。 「メ…メイジか!?」 実際はただの木の枝なのだが、メイジ 平民である以上心理的恐怖を煽るには十分だ。 「我々では相手ができん…!モット伯と護衛のメイジを呼べ!!」 時間を数刻程バイツァダスト 「伯爵が寝室でお待ちです…お急ぎを」 「は…はい…」 重い足取りで湯から上がり用意された服に着替える。 最後にあのP首飾りを付ける。これさえあれば頑張れると言ったもののやはり、恐かった。 「大丈夫…大丈夫だか…ら…」 再びキング・クリムゾン 「地下か…?まぁ火と馬鹿は高いところに行きたがるもんだから、地下にはいないとは思うが」 一応調べるべく階段を降り扉を開きしばらく歩くが、その先にある物を見て一瞬言葉を失う 「……おいおいおいおいおい!兄貴こいつぁ随分とヤベー趣味してんな」 「……こいつは…おったまげたな…全部拷問器具かよ」 その中の一つ、体の内側に張りを無数に生やした人形―アイアンメイデンを開くと、血臭が流れる。 針先を触るが完全に乾いているので、使われたのは大分前だという事が判る。 「急いだ方がいいぜ兄貴」 「……みてーだな」 (ソルベとジェラードもこんなゲロ以下の臭いがする部屋で殺されたってのか…!?クソッ!!) 「は…入ります…」 「随分と遅かったじゃないか」 モット伯が本を本棚に戻すと、シエスタの後ろに回り肩に手を当てる 「私はお前をただの雑用として雇ったわけではない…分かっているんだろうなぁ?」 「は…はい……」 「ふふ…そう緊張しなくともいい…別に痛い事をするわけではないのだから……今はな」 『今は』という言葉に、いずれされるという事に思わず泣きそうになるが必死になってこらえる。 「…くッ!…ン!」 「服の上では分からなかったが…いいものを持っているではないかね」 必死に耐えていたが、他人に触られた事のない場所を触られて遂に涙が零れた。 (父様…母様…マルトーさん…ヴァリエール様…ツェルプストー様…タバサ様…オスマン院長…!プロシュートさん…!ごめんなさい…) 父と母そして、今まで学院で会った人の顔が走馬灯のように頭に浮かんだ。 そこにドアを激しく叩く音が聞こえ、扉の向こうから叫ぶような声が聞こえてきた。 「申し訳ありませんモット伯!て、敵襲です!」 シエスタの胸から手を離しイラついたようかのように叫ぶ。 「えぇい…何のために貴様達に金を払っていると思っておるのだ!」 「で、ですが、敵は…メイジ…!恐らく火のメイジかと…!」 「役立たずが…ッ!!ヤツにも働いてもらわねばならん…メイジにはメイジで対応させろ!私は忙しいのだ!捕縛する必要は無い!殺せ!!」 「りょ、了解いたしました!」 「まったく…平民というものは無粋なものだ…さぁ続きをしようか」 泣いている姿を見て、嗜虐心をそそられたのかさっきよりもアレな笑みでゆっくりと近付く。 だが、またしても部屋のドアが叩かれた。 「敵メイジの攻撃で延焼が広がっております…!このままで屋敷が…!」 さっきとは別の年季の入ったような声が聞こえてくる 「何だと…ッ!?忌々しいヤツめ…!」 このまま火が屋敷全体に廻っては元も子もない。そう判断し杖を手に取り扉を開ける。 「火はどこだ!?」 「こちらです」 場所に案内するために衛兵がモット伯の手を取り部屋の外に出る。 「えぇい…!平民風情が私に触れずともよい!」 振りほどこうとするが、その手はガッシリと掴んだまま離そうとしない。 「…雇った部下の顔ぐらい把握しとけ…『幹部失格』だな」 「な…なにをおおおおおおおおおおおおお…きぃぃぃさまぁぁぁぁ…」 モット伯の悲鳴が聞こえ、代わりに衛兵の姿の歳を取った男が入ってくるが、体格、髪型などはシエスタに見覚えがあるものだった。 「遅くなったな」 「…プロシュートさん…ですか?」 「おう、正真正銘の兄貴だぜ、これで」 デルフリンガーの声を聞いて一瞬安堵したかのようだが、すぐに顔を青くして叫ぶ 「に、逃げてください!…このままじゃプロシュートさんやミス・ヴァリエールにも…!」 「いや…何の問題も無い。オレの仲間の言葉を借りるなら…『こいつはもう、出来上がっている』からな」 「こっちだ…!ローブを被ったヤツが居たぞ!!」 ローブを被った男が必死になって逃げるが足取りが弱弱しい。 (な、なんでこんな事に…!) その男の前にメイジが現れ杖を構えている。 「貴様…盗賊か何か知らぬがモット伯の館に侵入し火を付けて命あって帰れると思うなよ」 「きさ…まら!な…にを…言って…いる!わた…しが…モット伯…だッ!!」 「お前がモット伯だと?呆けた事を…!」 「わ…たしの…顔を…見て…も…まだ分からんの…か…!」 ローブの男が頭からそれを外しモット伯だという事を証明しようとしている。 だが、帰ってきた返事は希望の一片も残されていなかった。 「ハッ!貴様みたいな年寄りがモット伯なわけがあるまい!…命令だ、捕縛する必要は無い『殺せ』というな…」 「なん…だと…?」 壁に掛かった鏡を見るが、そこに写っているのは若さを失っている己の姿。 それを視界に納めた瞬間、胸に熱いものを感じそこに目をやると、氷の棘が突き刺さっていた。 「賊は始末した。モット伯に報告し…私も…クク…余り物の相手をせねばな…」 邪悪な笑みを浮かべ死体から目を離すが、後から追いかけてきた衛兵が驚くべき事を叫ぶ。 「モ、モット伯が…!…モット伯が殺された!!」 その声と共に衛兵が逃げ出す。それに反応して死体に目を向けるが…己の主が自分が放った氷に胸を貫かれ息絶えていた。 「…なッ!い、いったい…どういう…事…だ…?」 そのメイジは茫然自失で杖を落とし、その場に座り込み衝撃で意識を失った。 「命令に忠実すぎる部下ってのも…中々に大変なもんだな」 「兄貴、何やったんだ?」 「完全に死ぬ前に老化を解除しだだけだ。これでオレが止めを刺した事にはならず、かつ老化した事も残らねぇ。後は逃げるだけだ」 「結構えげつない手使うな兄貴も」 「こいつも、色々やってたみたいだからな…因果応報ってやつだろ…ま、人の事言えたもんじゃねぇがな」 「あの、娘っ子はどうすんだ?連れていかねーのか?」 「置いていく。今、連れ帰ったらバレんだろーが…! 自分が雇ったメイジに殺されたんだからな。ま、これで捜査が入って地下のあのクソみてーな部屋も見付かんだろうよ」 その言葉と共に歩き出し、館を出る。衛兵達は全員逃げ出していたので隠れて移動する必要は無かった。 翌日昼頃 「…ねぇ昨日モット伯が護衛のメイジに殺されたらしいんだけど…あんた何かやったんじゃないでしょうね」 「殺ったのは護衛のメイジなんだろ?オレの知ったこっちゃあねーよ。ほれ…オメーが持ってろ」 「…なにこれ?」 投げ渡された袋を開けるとそこには『クックベリーパイ』が入っていた 「……毒?」 「いらねーなら返せ」 「いや…急にこんなもの渡されるから…」 「オレに隠してスーツの立替しようなんざ10年早えーよ。テメーのケツぐらい自分で吹く」 「な、なによ!ご主人様が使い魔の事を思ってやってあげたんじゃない!」 「ハ…!まだまだマンモーニのくせしてよ…まぁそいつは秘薬ってヤツの代わりにはならねーだろうが…礼は言っておく」 「わ、分かればいいのよ!分かれば!」 「ところで、前のヤツにウェールズから預かった風のルビーを入れてたはずだが…あるんだろうな?」 「………そういう事はもっと早くいいなさいよこの馬鹿ハムーーーーーーーーー!!」 スデにゴミと一緒に集められ焼却処分寸前になるところに 焦りに焦ったルイズとどうでもいいようなプロシュートがそれを回収していたのを微笑ましい目で出番の全く無いフレイムがそれを見ていた。 モット伯 ― 護衛のメイジに胸を貫かれ死亡。捜査の段階で地下の拷問部屋も発見され身分剥奪。 護衛のメイジ ― モット伯殺害犯として連行され取調べの後、処刑。ひたすら自分はやっていないと言い張っていた。 シエスタ ― 数日取調べを受けるが、部屋に篭り何も見ていないと言い釈放。学院に戻ってくる事になる。 ゼロのルイズ ― 好物を貰い、少しだけデレに傾きかけるが風のルビーの事を知らされていなかったため戻る。 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/gamemusicbest100/pages/6920.html
ソウルリバース ゼロ 機種:iOS, And 作曲者:SEGA Sound Team(尾池直人、伊藤二三雄、後藤真一、高木一樹、永田泰之、鷹野めぐみ、野宮牧人、三島順平)、澤野弘之(主題歌) 発売元:セガゲームス 発売年:2016 概要 『ボーダーブレイク』などで知られるセガ第二研究開発本部(AM2研)開発のスマホRPG。通称は『ソルゼロ』。 アーケードで稼働ネットワーク対戦アクションゲーム『ソウルリバース』と世界観が繋がっている。 2019年5月31日にサービス終了。 主題歌は澤野弘之氏が作曲。BGMは「ボーダーブレイク」シリーズを手掛けたサウンドチームが制作しているため音楽の質は高い。 サントラは発売されているが、「ボーダーブレイク」シリーズのサントラと同じく、具体的な作曲者は明記されていない。 収録曲(サウンドトラック順) 曲名 作・編曲者 補足 順位 e of s 澤野弘之 主題歌 歌:mizukiサントラ未収録曲 魂-運命を越えて- SEGA Sound Team Soul Reverse 躍動の瞬間 Battle #1 戦火を越えて Boss Battle #1 荘厳なる魂たち Departure #1 花の都のマールコット Marcot 旅立ち Departure #2 赤の狂気 Boss Battle #2 帰るべき場所 Home 魂の共鳴 Battle #2 未踏の領域 Battle #3 記憶の試練 Boss Battle #3 心を込めて Luce かけがえのない仲間 Guild 予感-果てなき道- Tower 高みへと Home 待ち受けるもの Boss Battle #4 サウンドトラック ソウルリバース ゼロ オリジナルサウンドトラック
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1096.html
ふう、どうしたものか……。 才人と共に、ルイズの服を洗濯しながら、僕は空を見上げた。 衛兵の立場にありながら、昨日の騒ぎを収めるどころか率先して煽っていたと言うことで、僕は三日間、衛兵の仕事を干されることになった。 仕事を干されている間、僕はルイズから生活の糧を得るしかない。 しかし、既に昨日僕らは、三日間の御飯抜きを宣告されている。 言われた時点では、冗談だと思っていたのだが。 まさか本当に、その日の夜のご飯を抜いてくるとは。 乗馬鞭を調教と称して振り回したり、彼女は加減というものを知らないのか? そもそも僕が何時、彼女にゼロと言ったのだ。 八つ当たりじゃないか。 僕の中のルイズ株は、連日ストップ安を記録している。もっとも上場を初めて、まだ三日目だが。 色々思い出して、凄く腹立たしい気分になった。 まあ、嫌なことでも仕事は仕事だ。 ここは我慢しよう。 ひょっとしたら、これから株価が上がるかも知れない。 そんな淡い期待を抱いて、洗濯を続ける。 「この、この!」 「?」 隣で洗濯していた才人が、突然、気張った声を挙げた。 見ると、ピンピンに伸ばす事で下着の紐を切っている。 ……人が我慢をしている時に、どうしてお前はそれを無に返すんだ。 昨日洗った洗濯物を締まって、部屋のホコリを軽く取り除く。 ルイズは朝食の為、今、部屋にはいない。 コレで、ようやく一息つける。 そう思うと、空腹感が一気に襲ってきた。 正直、あのルイズなら、本気で三日ぐらいご飯を抜きかねない。 どうにかして、食事を手に入れる算段を考えなくてはならないな。 「そういえば昨日、才人は厨房で賄い食を分けて貰ったんでしたね」 「ああ。今からまた、もらいに行こうと思ってるんだが……お前も来る?」 「ええ、是非」 昨日の才人の様に手伝いをする必要があるかもしれないが、食事が得られることを考えると割は良い。 借りを作りすぎるのは遠慮したいのだが、どうこう言っている余裕が僕には存在しなかった。 「よう! よく来たな『我らの剣』!」 厨房に入るなり、40そこそこの男を中心として、コックやメイド達が僕らの来訪を歓迎してくれた。 才人が、僕らが食事を抜かれたということと、手伝いするので、食事を分けて欲しいと云うことを伝える。 目の前の親父(話しぶりから、ここの料理長であろう)は、話を聞くなりほほえんで、メイド達に僕らを厨房の適当な席に着かせるよう言う。 「それ、我らの剣に食事の用意をしてやりな!」 「へい、マルトー親方!」 席に着くなり、先程の親父…マルトーさんが、僕らの食事を持ってくる様、他のコックに呼びかける。 その際、マルトーさんがしきりに僕の方を見てきた。 「……」 じろじろと暫く眺めた後、マルトーさんは表情を崩して、厨房の奥へと入っていった。 何だったのだろうか? 椅子に座るなり、メイド達がすぐさまぱっと、席を作っていく。 この歓迎ぷりに、僕はいささか目を丸くした。 簡単な賄い食を分けて貰う程度のつもりだったのだが、これではまるで上客の接待ではないか。 僕たちは彼らに対して、何かをしただろうか? 考えていた事が、顔に出ていたのだろう。近くにいたシエスタが、僕に話しかけてきた。 「貴族って、私たち平民にとっては本当に怖いんです。私みたいな普通の平民には、特に」 「?」 「でも、お二人とも貴族を前にあんな毅然として…… 凄く、格好よかったです」 つまり僕たちは彼らにとって越えられない壁をぶち破った、平民代表という訳か。 なるほど。だから『我らの剣』だと。 「まぁ、マルトーさんが貴族嫌いだっていうのもあるんですけどね」 シエスタはそう、つけたして、僕ににっこりほほえんだ。 僕は、素直にかわいらしいと思った。 そういえば才人の方はどうしているだろうか。 僕は才人の座った席へ目をやる。 マルトーさんや、他のコックにもみくちゃにされながら、うらやましそうな目でこちらを見ていた。 そうこうしている間に、食事が運ばれてくる。 白い、ふかふかしたパンと、温かい、具材の多く入ったシチューだ。 僕と才人は、その料理を目の前にして、手を合わせる。 「「頂きます」」 「うまい!うまいよ! あのスープとは大違いだ!」 「これは、かなりおいしい……」 僕は一口食べ、その美味しさに驚愕した。 父さんや母さんと様々なレストランに行ったが、これほどの味に巡り会ったことはほとんど無い。 出されたシチューは、具材、ルー共に丁寧に作り込まれていて、口に入れればほぐれるようにとろけ、舌全体に味を行き渡らせる。 パンはもちもちとしていて、少ない唾液で芳醇な甘みを引き出している。 少し濃いめのルーが、程良い水気を帯びたパンの甘みと程良くマッチする事による、絶妙なハーモニーッ! 最高に『美味いぞ~~~!』ってやつだアアアアアアハハハハハハハハハハハーッ! そんな僕らの様子にマルトーさんは気をよくし、得意げに語り出した。 「そうだろ。そうだろ。こうやって料理を絶妙の味に引き立てるのも、一つの魔法さ。そう思うだろ? サイト、ノリアキ」 「全くその通りだ!」 「ええ、本当に。強く同意しますよ」 これは建前とかではない、僕の本心からの声だ。 たぶん才人もそうだろう。 マルトーさんは僕らの返答に、より一層気をよくして、僕らの首根っこに手を巻き付けてきた。 少々もさもさしている腕毛が、微妙に気持ち悪い。 「良い奴らだな。お前ら、全く良い奴らだ!」 マルトーさんは少し間をおく。 「いや、ノリアキははじめ、シエスタから魔法を使うって聞いてな。どんないけ好かない奴かと思ったが、なかなかどうして良い奴じゃないか。よし、『我らの剣』! 今から俺はお前らの額に接吻するぞ! こら! いいな!」 僕が返事をする前に、マルトーさんの唇は僕の額に触れていた。 なま暖かい感触がする。 うわああああああ…… 「その呼び方と、接吻は止めてくれ」 僕の方を見ていた才人が、口を開く。 その言葉を聞いて、マルトーさんは僕の額からようやく唇を離した。 ナイスアシストだッ! 才人ッ! 「どうしてだ?」 「その、どっちもむずがゆい」 よし! 良いぞッ! 空気の読めない才人の事だから、気持ち悪いとか言い出すかと思ったが、実に良いッ! ディ・モールトな断り方だ! 才人の言葉を聞いて、僕らの首にかけていた手を離し、両腕を自分の前に持っていく。 そして力強く、厨房の全員に聞かせるように言う。 「おまえは貴族のゴーレムを叩ききったんだぞ! わかってるのか、どういう事か!」 「ああ」 嘘をつけ。どうせ後先考えずに、怒りにまかせてつっこんだだけだろう。 その後、才人は槍を何処で習った、貴族が怖くないのかなど、質問攻めに合いながら、もみくちゃにされていた。 しかし、あまり僕の方に話しかけてくる人間はいない。 そう考えていたのが、またも顔に出ていたのか、シエスタが僕の思ったことに答えてきた。 「怖いんです。魔法が使える平民は、乱暴な方も多いですから」 またメイジと勘違いされている。もう、いちいち訂正する気も起きない。 いっそ、メイジだと突き通しておこうか? まぁ、それはともかく。 「じゃあ、シエスタは僕が怖くないんですか?」 「ノリアキさん、友情に厚い方だって知ってますから。普通、力があっても助けに行くなんて、中々出来ないです」 「友情に厚い……ね」 友情か。 確かに僕と才人は友人だ。 だが、昨日までの時点で、僕は真の友がいるか? と言われて、Yesとは答えられなかった。 あのとき決闘に乱入しようとしたのも、結局は記憶の僕が、仲間と云うものを知っていたからかもしれない。 本当に僕は、友情というものを感じているのだろうか? ああまでこだわった、真に心の通じ合う友人とは、何なのだろう。 「友情って、なんなんでしょうね」 「はい?」 「いえ、ふと思っただけです」 「友情ですか……」 シエスタはう~んと首をひねって、考え込む。 というか、出会って二日目の少女に何を聞いているんだ、僕は。 「すみません、シエスタ。今のは……」 「一緒にいて、楽しいとか、気が合うとかじゃダメなんでしょうか?」 一緒にいて楽しい。気が合う。 相手を立てるとか、そういうことばかり考えていた僕には、あまり強く考えていない感覚だった。 「そういうものですか」 「はい。私もはっきりとは言えないんですけど……」 一緒にいて楽しい。気が合う。 そういうことを考えながら、才人の方を見る。 まだマルトーさん達にもみくちゃにされながらも、相変わらずうらやましそうに、僕の方を見ていた。 「プッ!」 僕はあそこまで空気が読めない訳じゃないし、自分で言うのも何だが、三枚目というわけでもない。 一緒にいて楽しいかもしれないが、気は合いそうにないな。 そう思いながら、僕はこの食事の時間を楽しませて貰ったのだった。 「っと、すみません。いきなりこういう事を頼むのも何なのですが……」 「なんだ。『我らの剣』」 食事が終わり、そろそろルイズも部屋に戻るであろう所で、僕はあることを思いついた。 もう少し、親しくなってからとも思ったが、やはり言える内に言っておいた方がいいだろう。 下手に親しいと、返って切り出しにくい。 「何か、2,3人入れるぐらいの大量の水のはれる…そう、例えば古い鍋とかを譲ってもらえませんか?」 「鍋?」 不思議そうな顔をして、マルトーさんは首を傾げる。 だが、理由は聞こうとせず、 「まあ、いいさ。我らの勇者達と、この厨房との親愛の証として持っていけ!」 と快く、僕のお願いを聞き入れてくれた。 そうして、厨房の裏手にあった古い大鍋を手に入れた僕は、それを広場の端へ持っていく。 ここなら、塀が影になってばれることも無いだろう。 それじゃあ…… 「作りましょうか」 「ああ」 「「五右衛門風呂を!」」 僕らは日本人ですから、お風呂は心の洗濯でありまして…… ここにあるようなサウナ風呂では、心の洗濯にはならないし、ゲロの臭いも落ちた気がしないので。 そうして僕らは早速、お風呂作りに取りかかったのだった。 To be contenued……
https://w.atwiki.jp/marisyonn/pages/4.html
ゆりの花 どうも初めまして。 ここでは、プライベートのことや今はまっているものなどを紹介していきたいと思います それでは、早速ランキングを書きたいと思います 「今一番好きな歌手ランキング」 第1位 AKB48 第2位 家入レオ 第3位 西野カナ でしたー。次回お楽しみに
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/2432.html
前ページDISCはゼロを駆り立てる 薄く目を開けて眠りから覚めたルイズは、今日もまた屈辱と虚構にまみれた一日が始まるのだと知って、魂を搾り出すような溜息を吐いた。 顔を洗いたいけれど、私は魔法を使えない。だから空っぽの桶を満たすには、平民と同じように広場の隅にある井戸まで行かなければならない。 暗鬱とした泥のような感情が噴出し、ベッドが底なし沼と化して体を飲み込んでいくように思われた。 息が詰まって胸が苦しくなり、ズキズキと胃を絞り上げられるような痛みが体内で暴れる。 無数の金属片を擦り合わせるような不協和音が頭の中で響き、ルイズは小さく唸りながら膝を立てて顔を埋めた。 不甲斐ない自分への怒りが、努力が実らない苛立ちが、常にルイズの傍らには存在している。どれだけ振り払おうとしても、それは絶対に消えはしなかった。 黒い炎に絶え間なく身を焼かれ続けている。その燃料は己自信の魂と肉の一部であり、歩んできた人生であり、また運命でもあった。 逃げられるはずも無い。この命ある限り、逃げ場はどこにも無い。 ルイズは死刑執行台に上っていく囚人のように、のろのろと時間をかけて身支度を整えた。 「おはよう、ルイズ」 平民のように鍵使ってドアを施錠していると、ルイズがこの世で自分の次に憎んでいる人物の声が聞こえてきた。 彼女はゲルマニアからの留学生。優秀な火のトライアングルメイジにして、ルイズのライバルでもあるキュルケだ。 相変わらず豊満に実っている胸を、ボタンを必要以上に多く開けて見せびらかしている。 酷すぎる自己嫌悪によって吐き気が込み上げ、筋肉が痙攣して喉が裏返りそうになった。それでも顔だけは平常を維持できるのが、ルイズの仮面の暑さを物語っている。 私には無い魔法の才能。私には無い女らしい体つき。私には無い女としての魅力。でも彼女は全てを持っている。それも当然のように、だ。 「それにしても、寂しくなるわねえ。ルイズともこれでお別れか」 「……? なにを、言っているのよ、ツェルプストー」 自分の惨めさに押し潰されそうになったルイズは、なんとかそれだけは言い返した。口喧嘩では勝てないと分かっていても、どうしても構わずには居られない。 胃酸が混じったのかすっぱい唾を飲み下して、折れ曲がりそうになった背筋を逆側から叩くように伸ばす。自分が取るに足らないゴミ以下の存在だと認めたくなかった。 挑発的な笑みを浮かべているキュルケの顔を、ありもしない胸を張ってルイズは見返す。 「ルイズ、あなた退学になったじゃないの。進級試験で、使い魔を呼べなかったから」 あっけらかんと言い放たれた彼女の言葉によって、ルイズは馬車を投げつけられたような衝撃を受けた。 足から力が抜けて、閉めたばかりのドアに背中がぶつかる。大きく見開かれたルイズの目に映った世界は、バラバラに崩壊を始めていた。 頭の中で誰かの声がする。認めるな、と。認めたら、お前は……と。 「え、な、そんな……。ほ、ホワイトスネイク! 出てきなさい!」 「どうしたのよ、ルイズ……、こんな朝から叫んだりして。 ショックなのは分かるけど、ね……? それに白蛇って、そのぼろっちい人形の事?」 ルイズの手の中には、いつの間にか白い人形が握られていた。 アルビオンへ旅行へ行った時に、お父様に買ってもらった人形だ。ルイズが最も大切にしている宝物の一つ。 元は勇者イーヴァルディを模して作られたのだろうが、長年の劣化によって色を失い、下手糞な継ぎ接ぎだらけのみすぼらしい姿を晒している。 これを縫ったのは誰だろうか。一瞬だけ浮かんだ疑問に、押し込められていた記憶が噴出して答えた。 自分の指に、真新しい包帯がある。昨日の夜に、人形を縫おうとして、針を刺してしまったから。 「そんなに怯えなくても……。これはあたしの使い魔のサラマンダー、フレイムよ。 噛み付いたりしないから、安心して」 いつの間にかキュルケの背後に居たのは、人間を軽々と食いちぎれそうなサラマンダーだった。 その雄雄しい姿を見て浮かぶのは嫉妬と羨望。自分にこれだけの力があれば、どれだけ幸せだっただろうか。 俯いていた視線を持ち上げると、相変わらず微笑んでいるキュルケの顔があった。 いや、笑っているのではない。彼女は私を哀れんでいる。ゼロで何もない可哀そうな奴だと思っている。 「そんな……わ、わたし、私は……」 懐から杖を出して、絞り出すようにして呪文を唱えた。「フライ!」だが何も起こらない。 次々に叫ぶ「錬金! ライト! コンデンセイション !」何も起こらない。 「さ、サイ、レント! レビテー、ション……。ウィン、ド……ブレイク……」涙で視界が歪み、鼻が詰まって、唯一の自慢だった綺麗な詠唱すら出来なくなった。 完全に体から力が抜けて、ルイズは絨毯の上にへたり込む。裸でロマリアに放り出されたような寒気が襲い掛かってきて、ルイズは自分の体を強く抱きしめた。 「ああ、ルイズ……。僕のルイズ……、か。 昔は君の事が好きだったが、なんだね、そのざまは。16になってコモン一つ使えないとは」 「ワルド、さま……」 がたがたと震えながら、目の前で自分を嘲笑う婚約者を凝視する。 かつて自分に優しく接してくれた彼の姿は無く、そこにあったのは、ただその他大勢と一緒に自分を中傷する青年だった。 ワルドは汚いものでも見たように顔をゆがめ、大きく舌打ちする。ルイズの事など忘れたかのように、羽帽子を被りながら踵を返した。 「ルイズ、あなたは何をやっているのですか?! ヴァリエール家の三女ともあろうものが、このような醜態を晒して! 恥ずかしい!」 「おかあさま……」 呆然とワルドを見送っていたルイズの背後から、ヒステリックな女性の声が響いた。 振り向かなくとも声の主が誰なのか、十分すぎるほどに分かっている。無数のウジ虫が背筋を這い上がっっていった。 ルイズは貴族の証であるマントを強く握りしめ、あふれ出した涙をそこに吸い取らせると、恐怖に押しつぶされそうになりながら視線を向ける。 果たしてそこにいたのは、ルイズが最も恐れ、そして最も愛している家族だった。 「ちびルイズ! まったく、本当に……」 「……ルイズ、私は貴方の事を信じていたのよ? でも……」 大好きなカトレアが悲しそうな目をしているのを見て、ルイズは全てを拒絶するために目を閉じる。 これが夢である事は分かっていた。目が覚めさえすれば、私は将来有望なメイジに戻れる。胸を張ってヴァリエールだと言えるようになるはずだ。 「なんで、なんで醒めないのよ……。もう、やだよ……」 しかしドアに頭を叩きつけても、夢は一向に消えはしない。誰もかれもがルイズに失望し、そして哀れむ。馬鹿にする。 裂けた額からは生暖かい鮮血がどろどろと流れ出して滴った。それなに夢は覚めてくれない。悪夢が終わってくれない。 胸を根こそぎ抉られるような虚しさと、頭の中をゴキブリが這い回るような不快感に蝕まれた。 「なんで、なんで努力しても無駄なの? わたしは、私はただ、普通の……」 爪が皮膚を突き破り、肉を深く切り裂いて血が流れる。荒れ果てた心情を映すように手足の肉が枯れていき、とうの昔に熱を失った体が崩れ始めた。 無数の破片になって落下していく自分の右腕。だがルイズはただ、根元から折れて砕けた薬指を無感動に眺めていた。 長かった地獄がやっと終わるのだ。人生の終焉に感謝こそすれ、拒絶するほどの力はもう残っていない。 両腕を失った体をドアに預けると、衝撃が不味かったのか左の肩が丸ごと落ちてしまった。脆すぎる体に苦笑し、光を失いつつある目で空を見上げる。 生憎と青空なんて言う気の利いたものはなく、人生の殆どを覆っていた暗雲が空まで閉ざしていた。 こんな時までつまらない人生だ、と小さく溜息を吐く。 「でも、最後に一度だけでいいから、魔法を使いたかったな……」 全てを失くした諦観の後で、消え入りそうな声でそう呟いた。 織り込まれた絶望はガリアの森よりも深く、望みはアルビオンより高かったが、何一つ叶わない。 とうとうルイズを構成していた何もかもが灰となり、後に残ったそれも強風に吹き散らかされ、何も残らなかった。 カーテン越しに差し込む星明りだけが照らす中、ルイズはいつもの悪夢から目を覚ました。 最悪の目覚めに大きく舌打ちし、ベッドから体を起こして頭を振っても、脳内にこびり付いた夢の残滓は振り払えずしつこく疼ている。 薄い夜着は多量の汗を吸っており、肌に絡みつくクラゲのようで不快だ。上質な生地を使っているとはいえ万能ではない。 ルイズは胸の部分をつまみ上げ、何度か動かして空気を送り込む。火照った体には、ひんやりとした部屋の空気が心地よかった。 窓の外は真っ暗で、まだ小鳥さえ眠っているような時間帯。本音を言えばこのまま寝てしまいが、それが無理だというのはルイズが一番よくわかっている。 せめて寝汗をきっちりと落とせれば違うかもしれないが、浴場は完全に使用時間外であり、ぬるま湯でさえあれば御の字だろう。おそらくは冷水を張ったプールになっているはずだ。 朝一番で水風呂に飛び込むほど酔狂ではないルイズからすれば、清潔なタオルで汗をふき取るぐらいが精々だった。 「ふん……。下らない悪夢だわ」 ルイズは軽く腕を振って念力の魔法を発動させ、テーブルの上に置かれていたワインをグラスへと注ぐ。 手元まで引き寄せたグラスをぐいと傾け、本来はゆっくりと味わうべき酒を一気に呷る。 味も風味も台無しな飲み方ではあるが、こんな気分の時はこれが一番だ。 ゴクゴクと喉を鳴らして最後の一滴まで飲み干すと、膝に乗せた腕に向けて大きく溜息を吐いた。 一見すると無手に見えるが、人指し指にはまっている小さな指輪がルイズの杖だ。 細かい細工のされた台座の上には風の力を蓄えておけるという貴重な石が乗っており、アクセサリーとしても十分に耐えるが、杖としてはかなり実用的なもの。 もっとも用心深い軍人が好むような一品であり、魔法学院にふさわしい杖であるとはとても言えないため、ルイズも普段は指揮棒サイズの杖を振っている。 「大丈夫カ、我ガ本体」 「ホワイトスネイク……。問題ないわ。 バラバラにしてやった過去が、石の下から……ミミズのように這い出してきただけよ」 ルイズは投げやりにそう答えると、手渡されたボトルからワインを注ぎ何度も何度も空にする。 酔って寝てしまえば楽なのだろうが、アルコール度数が低い上にルイズは酒に強い。正体を失くすほど飲もうとしたら、それこそ朝になってしまうだろう。 酒臭い気と赤ら顔を引っさげて朝食に向かう気にもなれなかったので、ルイズは一度酒を飲む手を止めた。 大きく深呼吸して心を落ち着かせる。額に浮いた汗を拭い、目を閉じてこの夢の始まりについて思いを馳せた。 あれはたしか、最初の魔法を奪い、その愉悦を味わっていた最中の事だったように思う。 夢の中では領地に風邪が流行し、魔法が使えないという重圧で心身ともに弱っていたルイズは、1週間も生死の境をさ迷った。 その間、枕もとでは家族が交代で番をしてくれたのだ。事実ならどれほど救いになった出来事だっただろうか。 実際に風邪は流行してルイズも罹ったが、何てことはなかった。高熱というほど熱も出ず、ただ少々調子が悪い、程度だった。 どれほどの努力の果てにも得られなかった輝きを、手に入れる手段を得たのだから当然だろう。もうルイズはゼロではなかったのだ。 ただ周囲の目に怯えるしかなかった少女は大人になり、猛毒の刺を持つハンターとなった。欲しいものは何もかも手に入れてきた。 その代わりに、度重なる悪夢がルイズを襲った。 ホワイトスネイクの本体であったエンリコ・プッチによって一巡した世界では、自らの未来を認めずに運命を捻じ曲げようとした場合、運命に報復されてダメージを受ける。 DISCによってルイズも体験した出来事だが、これが現在のルイズにも当てはまるとしたらどうだろう。 不快なこと極まりないが、ゼロと呼ばれて蔑まされ続けるあの夢こそが、ルイズが本来歩むべき人生というヤツだったのかもしれない。 例えば小さいことではあるが、この魔法学院の窓から見える風景も、領地にいた頃に見た夢の景色と似ている。 「汗を拭きたいわ。替えの服と、タオルをとってちょうだい」 「了解シタ」 ルイズは空になったワインボトルとグラスをテーブルの上へと戻し、大きく息を吐くと目を閉じた。 本体を失った直後の彼を呼び出したことにより、ゼロという正しい歴史から捻じ曲げられた運命。それがあるべき元の姿に戻ろうとした結果、ルイズに悪夢を見せているのかもしれない。 だが、そうだとしても、ルイズは歩みを止める気はなかった。 馬鹿にされ蔑まれ、貴族の誇りだけを頼りに地獄の釜の底を這いずり回れなど、カエルの小便と同じだ。とても飲める条件ではない。 だがその苦渋を飲み干せば、始祖ブリミルのお導きで虚無に目覚めさせて頂けるらしかった。嬉しくて反吐が出る。 「ハッ……! ふざけるんじゃ、ないわよ……」 ルイズに言わせれば始祖ブリミルなど、手に入れた力を好きに振り回した大量虐殺者でしかない。 人間がここまで繁栄するには、さぞ面白おかしく亜人や動物たちの血の雨を降らせた事だろう。 もし彼自身が聖人君子だったとしても、神から分け与えられた神聖な力を、膨大な数の悪人にまで広めた事は間違いない。 魔法は数えきれない人々の命を救ったかもしれないが、同時にその数倍の命を奪ったはずだ。 今でこそ亜人やエルフが敵とされているが、こいつがやった事に比べれば物の数ではないだろう。そもそも人間の都合で善悪が決めているのだから、別の種属から見れば何の意味もない。 だからこそ、力こそ全てである。弱者は惨めなだけだ。駆逐された者どもは、弱さという罪によって裁かれたのだ。 「そうよ、私は何も、間違ってなんて、いないはずよ……」 ルイズはベッドの上で膝を抱え、小さくそう呟いた。 事実、歴史書を読み解けば、六千年の間に聖地の奪回を目指して何十万人という数の人間が命を落としている事が至極当然のように記されている。 此処まで来ればありがたいお言葉というより、凝り固まった妄執の成れの果て、または呪いの一種なのではないかと言いたくなって然るべき。 膨大な犠牲を代償に一時的には奪還できたとしても、あんな辺境を維持し続けるのは無理だと誰もが分かっているだろうに、それでも人間は死の行軍を止めようとしない。 中には大きな犠牲を出しすぎ、大勢の生き残りを抱えながらも助けられず、人員の大半が砂漠の底で水分を残らず搾り取られた事例すらあったという。 屍と怨霊が山のように眠り、何樽もの血を吸った砂漠が聖地とはお笑いだった。実に洒落が聞いている。 これを故意にやったとすれば、始祖ブリミルというやつはとんでもない邪悪。地獄へ向かって突撃するレミングスの群れを、永遠に人間で再現し続けよというのだから。 「そう、始祖ブリミルが神なら、私こそ正義よ。何も間違っていないわ……。 勝利した者こそが正しい。それは、歴史が証明してくれる……。私を偉大なメイジだと認めてくれる……!」 顔をあげたルイズの瞳には、再び傲慢な帝王の色が戻っていた。 最初に願ったものは極めて些細なものであったが、運命は私を認めてくれなかった。だから運命を否定してやった。 ルイズは自らの属性が始祖ブリミルと同じ虚無である事を自覚しており、頃合いを見てその権威をそっくり頂くつもりである。 どうせ今の教会なんて、始祖の言葉を好きに解釈して富と権力を貪る豚に過ぎない。それも、痩せこけた民を食らいながら肥える豚だ。 彼らが必死になって育ててきた全てを、ルイズはただ虚無だからという理由だけで奪い取れる。実に素晴らしい。 もっとも、理由もなしに虚無を主張しても笑われるだけだろう。それは避けねばならない。 下手をすれば宗教裁判にかけられ、重罪人として処刑される。準備は入念に行う必要があった。 誰も私を疑わず、誰もが虚無のメイジだと信じるようにしなければならない。無力なゼロではなく、絶対なる虚無として。 それならば猶の事、夢は乗り越え踏み潰すべき忌まわしい物だ。ルイズは無力である事を恐れ、嫌悪していた。強くありたいといつも願っている。 ルイズにとって神とは、ありがたい石像でも伝説の中のメイジでもなく、ホワイトスネイクであり自分自身だった。 「最後に笑うのは……。この、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールなのよ!」 始祖は神から力を与えられた。そして伝説になり、やがては神になった。 ならばこの私は、自らの手で力をもぎ取ってやろうと決めたのだ。 まだ、ただの子供だったあの頃、あの屈辱と憎悪を忘れないために。 その為には、ありとあらゆる悪事に手を染めることを厭わない。理想の場所が地方都市の彼方でも、目指す理由には十分すぎる。 それに、今更戻れる道理も無いだろう。DISCを奪って殺した人間だけで28人に上っているし、魔法で殺した数は数えてさえいない。 DISCを抜いたうち19人が男で、平均年齢は28歳。右利きが13人、左利きが4人、両利きが2人だ。ジャン、から始まっている名前の者が2人居る。 女性9人の平均年齢は36歳。これは67歳の……かつてルイズが好きだった、家庭教師が含まれているためだった。 丁寧に教えてくれる良い教師だと思っていたのだが、内心では格が低い自分の生まれを卑下しており、ヴァリエールという名家に生まれながらも才能の無い自分が苦しんでいるルイズの姿を長く見ていたいから、だったと知ったときはかなりムカついた。 「そうね、久しぶりに読書でもしようかしら……。ホワイトスネイク、ついでに頼むわ」 ルイズは軽い声と共にベッドから立ち上がると、躊躇いもなく汗に濡れた夜着を脱ぎ捨てた。 肌に貼り付くようだった服から解放され、ひんやりした空気が冷汗に濡れた体を包む。篭っていた暗鬱さまで抜けていくような感覚に、ルイズは思わず微笑みを浮かべた。 この部屋を覗くような蛮勇の持ち主はいない。もし居ればなんだかんだ言いがかりをつけて財産を搾り取る所なのだが、残念だ。 動いた拍子に乱れた髪の毛を背中へと送る。髪の毛を大きく伸びをして、受け取ったタオルで体を拭き清め始めた。 タオルとはいえ上質な生地で作られており、肌触りは決して悪くないが、乾いたままのタオルではうまくない。 「やっぱり、蒸しタオルの方がいいわね……」 口の中で素早く呪文を唱えてパチンと指を弾けば、すぐさま部屋中の水分がルイズの右手へと殺到する。 水系統の初歩、コンデンセイションだ。 その気になればすべての水分を集めることもできたが、吸収できない水が滴り始める前に魔法を止めた。軽く揉んで水分を行き渡らせる。 これだけ湿り気を持てば十分だろうが、代わりにだいぶ部屋の空気が乾いてしまった。服を着た後で換気する必要があるだろう。 水系統のメイジにとって湿度というものは極めて重要だし、乾燥した空気は肌にも良くないらしい。 もう一度指を鳴らし、次はムラが出ないように満遍なく過熱していく。 次第に熱を帯びていくのを手の平で感じた。水を冷やす事は簡単なのだが、適温に温めるとなると少々難しい。 昔は失敗して、鍋がひっくり返りそうなほど激しく沸騰させてしまったり、跳ねた熱湯で手を火傷したりもしたが、今ではもうお手の物だ。 先ほど棚から取り出されたばかりだというのに、タオルは1分とかからず熱々の蒸しタオルへと変化していた。白い湯気がほのかに立ち上っている。 たったそれだけの事に魔法を使える自分が嬉しくて、ルイズは小さく鼻歌を歌いながら肌の上を滑らせた。 「今日ハ、誰ニスルンダ?」 ホワイトスネイクは問いかけながら一枚のDISCを作り出し、シーツを剥いだベッドの側面に差し込む。 木と木の接合部の一部にカラクリがあり、内部にあるスイッチを薄い物で押し込むことによって、ベッドの一部が机の引き出しのように引っ張り出せるようになっていた。 無理をすれば3人は眠れるベッドだからこそ可能な仕掛けだ。収納になっている部分だけでも、1年間に使う教科書の全てを余裕で納められるスペースがある。 様々なものがごちゃごちゃと詰め込まれているために、大して広いとも感じられないが、乙女のささやかな秘密を守るだけなら十分だった。 ホワイトスネイクは作りかけの武器を取り出して脇に置き、教会が見れば即座に燃やされるような本の山を外に積み、露になった底板との隙間にDISCをねじ込んだ。 これもちょっとした仕掛けがあって、ただ全体を逆さにしただけでは発見できないようになっている。念には念を入れてあった。 取り外された板の下には、数枚のDISCが隠されていた。ランプの光を受け、幻想的な虹色の光を反射している。 「そうね……。せっかく思い出したし、彼女にするわ」 ホワイトスネイクはルイズが指さした一枚を紳士的な態度で拾い上げ、体を拭いている腕を邪魔しないように、そっとルイズの側頭部へと差し込んだ。 ルイズは用の済んだタオルをテーブルへと放り投げ、真新しいネグリジェを身につけながら、鼻歌を交えつつ他人の人生を体験し始める。 「ん、ありがとう」 半ばまで頭に埋まったDISCの表面には、驚愕に顔を歪めている老婆の顔が写りこんでいた。 前ページDISCはゼロを駆り立てる